電気を鏡に映したら

2008年度のノーベル物理学賞は、南部陽一郎小林誠益川敏英の3氏が受賞するのだそうです。
受賞理由は「自発的対称性の破れ」、「CP対称性の破れ」。
素直に嬉しい話ですよね。

で、さっそく対称性について何か書こうと思ったのですが、素粒子の話は良くわからないのでパス。
身の丈に合わせて、身近な電気と鏡のことにします。
 (以前こんなヨタ話を書きました ... まあるいビッグバン [id:rikunora:20080428])

素粒子の世界でしばし耳にする「CP対称性」とは何のことでしょうか。
C対称性とは Charge(電荷)の保存則、P対称性とは Parity(鏡像)保存則のことです。
ここで1つ疑問、なぜCとPが1セットになっているのでしょうか?
素粒子のような極限ではなく、私たちの日常レベルでは、電荷が勝手に増えたり減ったりすることはまずありません。
また、鏡に映った世界と、もとの世界で物理法則が違っている、ということもないでしょう。
だったら、C対称性とP対称性は、それぞれ2つの別のこと。
無理やりまとめて1セットにすることはないんじゃないかな、と思うのです。

鏡に映った世界の物理法則は、本当にもとの世界と同じなのでしょうか。
何か、右と左で異なっているような法則はないものでしょうか。
思い当たるのが「フレミングの右手の法則、左手の法則」。
法則の名前に左右が付くのですから、鏡の中と外とで反対になるはずです。
実際、絵を描いてみると・・・

・・・ほら、違っているじゃないですか。
ノーベル賞の話題にまで上る、パリティ保存はこんな簡単に破れてしまうのですかね。

そうなると、疑いたくなってくるのは磁石の中身です。
もし物理法則が鏡の中でも同じように成り立つのであれば、鏡の中の磁石はSとNが反対になるのだと考えざるを得ません。
磁石の中身をとことん分解してみると、磁気を帯びているのは主に1個1個の電子であることがわかります。
一個の電子は小さな磁石なのです。
なので、問題は鏡に映した電子がどうなっているか、にかかってきます。
もし電子が回転していて、その結果磁気が発生しているのだと考えればどうでしょう。
通常右回りの電子は、鏡の中では左回り。
なのでSとNの向きは、鏡の中と外とでは反対向きになる。
そうなれば、鏡の中と外とでフレミングの法則は同じように成り立つことになります。

電子の持つ磁気的な性質は「スピン」と呼ばれています。
ただ、本当に電子がコマのように回転しているかどうかは疑問が残るところです。
たぶん、コマのような剛体が回転しているイメージとは違います。
  >> 量子力学のつまずきの石 [id:rikunora:20080417]
実のところ、電子が回転している姿を誰も「直接見た」ことがありません。
というより「直接見る」方法がないのです。
鏡の話にしても、残念ながら本当に鏡の世界に入って、電子を逆回転させることはできないわけです。
もし電子の回転が疑わしいのであれば、鏡の中のフレミングの法則もやっぱり疑わしくなってきますね。
そうなったときに、鏡の中のフレミングの法則を救う、もう1つの方法があります。
それは、実世界でマイナス電荷を持っている電子を、プラスの電荷を持った電子に入れ替えてしまう、という方法です。
こうすれば、確実に鏡の中と外とで、フレミングの法則が同じ形になります。
プラスの電荷を持った電子とは、電子の反物質陽電子のことです。
こうして、電荷Cと鏡像反転Pを同時に行う理由にたどり着きました。
(この理屈で言うと、鏡に映った電子=陽電子ってことになるのだろうか?)
いや、素粒子の世界ではもっと難しいことを考えているのでしょうが、
日常レベルでCP反転をイメージしたら、こんなものかなと。
  >> wikipedia:CP対称性の破れ

ちなみに今回のノーベル賞の受賞理由は、そうしたCP対称性が極限の世界では破れることがある、というお話。
さすがに日常的な世界でそういった破れの例を探すのは、ちょっと難しそうですね。


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ブルーバックスに、南部陽一郎先生の書かれた「クォーク」という本があります。

クォーク 第2版 (ブルーバックス)

クォーク 第2版 (ブルーバックス)

ノーベル賞の先生が一般向けにやさしく書いた本って、それだけで貴重だぞ。
私の手元にあるのは昭和61年版と、けっこう古かった。
今見たら、内容を新しくした第二版が出ていました。買いかなぁ。

そんでもって、おっかあに「これが南部陽一郎の本だよ」といって見せてみました。
10分後・・・すっかり寝てました。
感想は「本を開いたとたん、強烈な睡眠パワーが襲ってきた。恐るべしノーベル賞。」
ううむ。


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※ 10/09 追記
てきとーに書いたので、誤解を招かないように、一応の注釈をば。
パリティ対称性は、電磁力、強い相互作用力については成立していることが確認されています。
なので、上記の鏡に映した電磁気の問題は、無理に反粒子を持ち出さなくても電磁気の範囲内で解決できるはずなんです。
P対称性が破れて、どうしてもC対称性まで合わせないと解決できないのは「弱い相互作用力」についての話。
本当を言えば、日常レベルではP対称性とC対称性は、それぞれ個別に成り立つということで何の不都合もありません。