マックスウェル方程式は電磁気学の全てでは無い

ウィキペディアの「電磁気学」には、次の記載があります。wikipedia:電磁気学

・・・このローレンツ力とマクスウェル方程式電磁気学における最も基礎的な法則である。

ちょっと細かい話なのですが、なぜ単に「マクスウェル方程式は」ではなくて、
わざわざ「ローレンツ力とマクスウェル方程式は」となっているのでしょうか。
実は、ローレンツ力(又はフレミングの左手の法則)は、マクスウェル方程式とは別の、独立した法則なのです。
マクスウェル方程式から(直接的に)ローレンツ力を導くことはできません。

別の資料にも、こんな記載がありました。
ここでも基本法則は「マックスウェル方程式+ローレンツ力」となっています。

電磁気学基本法則は,マックスウェル方程式と呼ばれる,4つの式で表されます.
マックスウェル方程式を本当に理解するには,ベクトル解析という大学レベルの数学が必要になります.
しかし,その意味を言葉で表すことは,ある程度可能です.
マックスウェル方程式は,次の1から4を表しています.

  1.電荷は電場の源である.
  2.N極だけ,S極だけ(単磁極)は存在しない.
  3.磁場が時間的に変動すると,渦巻き型の電場が発生する.
  4.電流が流れると,渦巻き型の磁場が発生する.

それから,電荷が電場や磁場からどのような力を受けるかを与える式が,電荷の運動を表すために必要です.
それは,ローレンツ力と呼ばれ,言葉で表すと,次のようになります.

  1.電荷は電場に平行に力を受ける.
  2.動いている電荷は,磁場から仕事をしない方向に力を受ける.

  -- 電気と磁気の秘密 >> http://www.u-gakugei.ac.jp/~nitta/6cities_em.pdf

そのベクトル解析ってやつでマックスウェル方程式を書くと、こんな感じ。

ローレンツ力はこんな感じです。


さて、このマックスウェル方程式を額面通りに受け止めると、どこにも力(F)が入っていないことに気付きます。
マックスウェル方程式が言っているのは、あくまでも電場(E)と磁場(B)の関係であって、
電場や磁場がどういう力を与えるかについては何も言っていません。
電場があれば当然、荷電粒子は力を受けるではないか、
磁石と磁石の間には、くっついたり反発したりの力が働くではないか、
・・・などと思うかもしれませんが、そうした力(F)に関することわりは、全てローレンツ力の方が受け持っているのです。
たとえ力(F)のことを全く考えなかったとしても、マックスウェル方程式だけから電磁波を予言することは可能です。
(もっと詳しく見ると、ここでローレンツ力に含めた「1.電荷は電場に平行に力を受ける」は、
個別にクーロンの法則と見なすこともできます。
そして、クーロンの法則とはそもそも電場の定義なのだ、とするならば、
「2.動いている電荷は,磁場から仕事をしない方向に力を受ける」だけが
マックスウェル方程式に含まれない概念だということになるでしょう。)

ローレンツ力は「フレミングの左手の法則」として世に知られています。
ウィキペディアには次のように書かれています wikipedia:フレミングの左手の法則
『フレミング左手の法則はローレンツ力の方向を覚えやすくするために考案されたものである。』
たぶん中学校(かな?)で教わるので有名になっていると思うのですが、
私自身はこの「フレミング左手の法則」なるものを覚えていません(右手も覚えていません)。
唯一、「磁場は電流の周りに、右ねじにできる」ということだけを覚えています。
「右ねじの法則」さえ覚えておけば、フレミングの法則は導き出せるからです。

この図が、私流のフレミングの法則の覚え方です。
直観的には、流線の「濃い、薄い」で、電磁気の大半がカバーできると思っています。
ただ、ここでもう1歩深くつっこんで「なんで濃い方から薄い方に押しやられるの?」と問われたなら、
やはり「なんとなく」である、としか答えようがありません。
マックスウェル方程式に当てはめて考えると、
2つの磁場(B)を重ね合わせたとき、磁場の発生源にどんな力が働くかということを、
マックスウェル方程式は教えてくれません。
(ひょっとするとお互い何の影響も無しに、ただ重なり合うだけかもしれないのです。)
なので、どうしてもローレンツ力なり、フレミングの法則なりで、力の働き方についての法則を設ける必要があるわけです。

『古典物理は、ニュートンの運動法則とマックスウェル方程式で完結している。』
・・・これが世の中的な認識ではないかと思います。
私もつい最近まで、そう思っていました。
なぜこんな重箱の隅をつつくような話題を取り上げたかというと、
実は完結していなかった、ということが言いたかったわけです。
しかしながら、もし他の誰かが世の中的な認識を述べたとき、
「実はローレンツ力が含まれていない」などとツッコミを入れたなら、
あなたは100%間違いなく嫌味なヤツだと思われるでしょう。
なので、こんなことは一人でニヤニヤしながら胸中に秘めておくのが良いと思われます。
もし本気で(?!)マックスウェル方程式からローレンツ力を導出したかったなら、
「場の性質は座標変換に対して不変である」といった原理を敷く必要があると思います(たぶん)。
でもそれって「古典」では無いですよね。

ちなみにもう1つの有名な法則である「オームの法則」も、マックスウェル方程式+ローレンツ力から導くことはできません。
それは電気抵抗が熱に絡んだ事象であり、古典物理のもう1つの大きな柱である熱・統計力学に立脚するからです。
オームの法則も、ミクロな立場から本気で(?!)考えようとすると、けっこう難しかったりします。