バタートーストの法則を検証する

「食パンを落とすと必ずバターが付いているほうが下になる」
有名なマーフィーの法則の中の1つです。
(選択重力の法則、とも呼ばれています。他に、
「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する」
という法則もあるようです >> wikipedia:マーフィーの法則
果たしてこの、バタートーストの法則は本当なのか?
ひょっとすると、トーストの重たい面の方が落ちやすいのかもしれませんし、
何か超心理的な力(?!)が働くのかもしれません。
そこで、とにかく試してみることにしました。

トーストにバターを塗ったものを、50回ずつ、2セット落としてみました。
落下の方法は、立った状態で、トーストを食べようとする姿勢からポロッと取りこぼす感じで。
偏りを防ぐため、左右の手で同数ずつ試しました。

本当はもう少し回数を増やしたかったのですが、50回も落とすとトーストがボロボロになるので、この辺が限界。
2セットというのは、2枚食べたらおなかいっぱいになったということです。

■結果 バターが下:バターが上
1セット目 18回:32回
2セット目 30回:20回

1セット目と2セット目ではずいぶん結果にばらつきがありますが、
それでも全体として見れば、やはり表と裏の回数は5分5分でした。
# 50回中 18回(以下)が下になる確率は、たった3%程度なんです。
# かなり珍しいことが起こったものです。
# EXCELで「=BINOMDIST(18,50,1/2,TRUE)」として計算。
しかし、実はここに数字には表れていない一つの事実があったのです。
それは、1セット目の最初に落としたときに、ものの見事にバター面が下になったということと、
2セット目の最初にも、やはりバター面が下になったということです。
つまりバタートーストは、たとえ確率的に5分5分であっても、
ここぞという正念場ではバター面を下に向けてくるのです!
そもそも確率とは大数の向かう先の収束値であって、ただ1度についての言明ではありません。
たった1度の勝負どころでは、確率を無視した別の法則が働く・・・
これこそが真のマーフィーの法則なのではないかと思うわけです。

ところで、1枚の板の裏表に重さの違いがあったなら、やはり重い方が下になって落ちるのでしょうか。
一見当然に思えるこの予想にも、疑わしい点があります。
1.重いものと軽いものを同時に落下させたら、物体の重さによらず、同時に落ちるはずではなかったのか?
2.1枚の鉄板の片面に厚くペンキを塗ったら、ペンキの面の方が上を向くと思う?
実は物体の重さの偏りは、落ち方に無関係なのではないでしょうか?
次に、バタートーストよりも重さの違いがはっきりわかるような物体で試してみました。

木片ブロックの片面に、おもりとして手頃な磁石を張り付けたものを用意しました。
木片ブロックの大きさは、3x3x1cm です。
これを50回x4セット投げてみました。

■結果 おもりが下:おもりが上:横になって立った
1セット目 34 : 13 : 3
2セット目 22 : 20 : 8
3セット目 29 : 18 : 3
4セット目 33 : 12 : 5

意外と横になって立つ回数が多かった。
横になって立った回数は上と下に半分ずつ振り分けて、4セットを合計した回数で調べると、

おもりが下:おもりが上
 127.5 : 72.5

仮に上下に差がないとすると、これだけの違いが生じる確率はわずか0.004%、
つまり、確かにおもりが下になる方が多い、という結果になりました。
# EXCELで「=BINOMDIST(72.5,200,1/2,TRUE)」として計算。
だとすると、あの「物体は重さによらず、同時に落下する」という知識はウソなのか?

ここで改めて落下した木片ブロックを見直してみました。
実際にブロックを転がしてみると、ある程度の傾きがあっても、
起きあがりこぼしのようにおもりが下になって倒れる傾向があります。
こんな風にして角度を測ると、ブロックを35度まで傾けてもおもりが下になりました。

ということは、たとえブロックが空中で全くランダムな向きだったとしても、
着地の瞬間に35度の分だけおもりが下になる範囲が広いので、
結果としておもりが下になる率が上がるのではないでしょうか。
そこで、おもりが下になる範囲の割合を見積ってみました。

木片ブロックの形状と角度から考えて、ざっと、
・50%はおもりが下、
・25%はおもりが上、
・残る25%は、上下が半分ずつ
となります。
# おもりが上の範囲は、ブロック辺で傾けた角度が 35度ということから、
# ブロックの角で傾けた角度は 24度、平均的な立体角は約30度、ということで約25%としました。
この予想からすると、おもりが下になる回数は
  200回 x (50% + 25%/2) = 125回
実際におもりが下になったのは 127.5回 ですから、ほとんど一致しています!
いやー、ここまでぴったり合うとは思わなかった。

結論その1: 重さの偏った物体は、空中ではランダムな向きを向いているが、着地の瞬間に向きを決める。
結論その2: マーフィー大尉は、ものすごくたくさんバターを塗っていたものと考えられる。

その後、詳しく計算しているホームページを見つけました。# 10/28追記
* 重心のずれたサイコロの目の出る確率 >> http://www1.odn.ne.jp/sugihara/geotemple/dice.html
計算上必要となる球面三角形の面積はこちら。これは見事な考え方だ!
* 球面過剰 >> http://www.irf.se/~futaana/Kiruna/50_Kyumen.html
バタートーストの法則は、実は1996年度イグ・ノーベル物理学賞の研究対象でした。# 11/02追記
『落下するトーストの力学的分析』>> http://roverandom.blog52.fc2.com/blog-entry-506.html
元論文(英語.有料)はこちら >> http://iopscience.iop.org/0143-0807/16/4/005
 水谷さん、コメントThanks!
過去記事:
* ガリレオによろしく >> d:id:rikunora:20100329
* 歪んだサイコロ >> d:id:rikunora:20100308