ローレンツ変換の導出

特殊相対性理論のキモである、ローレンツ変換の導出を、できるだけ短くまとめてみた。

■ 必要なもの

1.光速度不変の原理

光は常に真空中を一定の速さcで伝搬し、この速さは光源の運動状態には無関係である。

2.(特殊)相対性原理

お互いに等速度で運動しているすべての慣性系において、すべての基本的物理法則は、まったく同じ形で表される。
それらの慣性系のなかから、なにか特別なものを選び出すことはできない。

光速度不変のグラフ

縦軸に時刻t、横軸に位置xをとったグラフ上に、光が速度cで飛翔する様子を描いてみます。

光はとても速いので、このグラフはものすごく横長になります。
これでは見にくいので、横軸を光速度cで割って、横軸の単位を x/c としましょう。
こうすれば、光の軌跡は、グラフ上で縦に1単位進むと、横にも1単位進むことになり、
結果として傾き45度のラインに位置付られることになるでしょう。

このままでも良いのですが、慣例的には横軸xをcで割る代わりに、縦軸のtにcを掛けてグラフの縦横比を合わせます。
このとき縦軸の長さ1単位は「光が1メートル進むのにかかる時間」と読めます。
また、ctの単位は「秒(時間)」ではなく「メートル(長さ)」になるので、グラフの縦横の単位が揃うことになります。

このグラフ上で「光速度不変の原理」は、
 「いかなる等速運動している人から見ても、光の45度ラインを動かさないようにせよ」
という要請になります。

■ グラフを歪める

いま、このグラフの上に、秒速10万kmのスピードで光を追いかけているロケットの線を書き加えてみます。
常識的には(古典物理学の考えでは)こうなるでしょう。

秒速30万kmで飛んでゆく光を、秒速10万kmで追いかけているロケットから見れば、
光は差し引き 30万 - 10万 = 20万kmで遠ざかっているように見えるはず・・・
ところが実際にはロケットの中から見ても、光はやはり秒速30万kmで遠ざかっているのです!
そうなるように、時空のグラフを歪めてつじつまを合わせなさい、というのが相対性理論の考え方なのです。
やってみましょう。

こんな風に、45度ラインを中心にグラフ全体を歪めてしまえば、光の線は動かさずとも済むわけです。
つまり、このグラフのような形でロケット内の時間と長さを調整すれば、
光の速度はロケットから見ても一定に見える、ということです。

■ お互いさまの相対性原理

ところで、グラフの歪め方は、上に描いた1通りだけなのでしょうか?
例えば以下の図は全て、45度ラインを動かしません。

要は、45度ラインで対称でありさえすれば、どんな歪め方だって構わないわけです。
こういった無数の歪め方の中から、現実に起こり得る1通りを見出したいのですが・・・
ここでものを言うのが「相対性原理」なのです。
静止している人と、ロケットの中の人の立場は同等であり、どちらかを特別にえこひいきしない、という要請です。

ロケットの方を基準として、当初の「静止している人」を見た場合、
「静止している人」は光とは反対方向に秒速10万kmで遠ざかっています。
その「静止している人」から見ても、光はやはり同じ秒速30万kmで見えているはずです。
静止している人 -> ロケットの歪みと、ロケット -> 静止している人の歪みは、
ちょうど逆の関係でなければなりません。

■ 行列で解くローレンツ変換

1.光速度不変の原理 ->「45度ラインは不動」
2.相対性原理 ->「互いの立場を入れ替えれば、逆の歪みが起こる」
この2点から、グラフの歪め方を定めることができます。
グラフの歪め方を、一次変換の行列で表してみましょう。

変換行列Lは、次のように考えて定めています。
・(1,0) は、傾きv/cの直線上のどこかに移る => この点を(α, (v/c)α) としよう。
・(0,1) は、傾き1/(v/c)の直線上のどこかに移る => この点を((v/c)α, α) しよう。
ここで登場した α は未知数で、このαを決定することが最終目標です。
次に、この変換行列Lの逆行列L^-1を計算してみます。

この逆行列L^-1は「互いの立場を入れ替えたときの、逆の歪み」、
つまり「ロケットから見た静止した人」になっているはずです。
ということは、逆行列L^-1 は、行列Lの速度vを、速度-vに入れ替えたものになっていなければなりません。
そこで2つの行列を見比べると、行列式 1 / ( α^2・{1 - (v/c)^2} ) = 1 だということがわかります。

こうして、α = 1 / ±√( 1 - (v/c)^2 ) という答が得られました。
これがローレンツ変換です。

行列式が1の意味

行列式が1ということは、基底ベクトルで生成した平行四辺形の面積が、変換の前と後で変化しないことを意味します。

このことから、速度 v を変化させて変換Lを施したベクトルを並べてゆけば、それは双曲線になることがわかります。

この双曲線の式は x^2 - (ct)^2 = (一定値) ですから、
ローレンツ変換によって x^2 - (ct)^2 という量は変わらない、ということになります。

■ 線型変換でいいの?

ところで、上ではグラフの歪みをいきなり線型変換行列に置き換えたのですが、これは良いのでしょうか。
これ以外にも歪みの方法は考えられないのでしょうか。
アインシュタインは次のように述べています。

第一にこれらの方程式は1次でなければならない。
なぜならば、空間と時間は斉一という性質を持つと仮定したからである。

つまるところ線型という性質も、相対性原理から導かれる帰結なのです。
例えば、速度 v1 のロケットから、さらに速度 v2 のミサイルを発射したことを考えてみてください。
静止している人から見たミサイルの変換L(x1+x2, t1+t2)は、
静止->ロケットの変換L(x1,t1)と、ロケット->ミサイルの変換L(x2,t2)を合わせたものになるはずです。
 1.L(x1+x2, t1+t2) = L(x1,t1) ○ L(x2,t2)。
また、ここで扱っている運動は全て等速直線運動なので、時間と距離をλ倍すれば、変換後の結果もλ倍になります。
 2.λL(x,t) = L(λx, λt)
この1.と2.の性質が即ち線型性ということであり、
線型な変換なのだから、線型な行列によって表せるということになるでしょう。

(参考) なぜ E = mc^2 なのか? >> d:id:rikunora:20080703