Jarzynski等式とは何か
世界初、情報をエネルギーに変換することに成功!
「マックスウェルの悪魔」を実験により実現!!
マイクロメートルサイズの観測と制御により、熱運動から直接エネルギーを取り出す実験が成功したそうです。
>> http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/pressrelease_files/kouho_926d762ef5d729c7544d1276739468c5_1289788403.pdf
上の資料を見れば、なんだかすごいことをやったぞ、という雰囲気は十分に伝わってきますね。
しかし、この実験は最先端の内容を扱っているので、意味を正しく理解するのは容易ではありません。
私は以前からこんなサイト「甦るMaxwellの悪魔」を作っていたこともあって、この実験内容に強い関心を持っています。
そこで、この実験に関して私が分かっていることを、ざっくばらんにまとめておこうと思います。
まず今回は、Jarzynski等式についてです。
関連する論文を見ると、この実験の理論的な背景には"Generalized Jarzynski Equality"、
「一般化されたジャルジンスキー等式」というものがあります。
* Jarzynski Equality with Maxwell's Demon(数理解析研究所講究録、日本語だよ)
>> http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1565-10.pdf
今回の実験の主眼は「一般化された」というところにあるのですが、それを知るためにはまず一般化される前の、
普通の Jarzynski等式が何なのかを知らなければなりません。
残念ながら、Jarzynski等式を日本語で分かりやすく解説したサイトは(いまのところ)見当たりませんでした。
英語で検索したところ、次の資料にコンパクトにまとまっていました。
* Fluctuation theorems(ゆらぎの定理、チューリッヒ工科大学の資料)
>> http://www.itp.phys.ethz.ch/research/qinfo/forstudents/Beaud.pdf
(ちなみにチューリッヒ工科大学と言えば、かのアインシュタインが卒業した学校です。)
以下、この資料を見てみましょう。【n】は資料のページ番号、※は私の注釈です。
【1】ゆらぎの定理
【2】アウトライン
【3】平衡系
・次の式が成り立つような熱力学的な系は、平衡状態にあると言う。
∂ρ(x,t) / ∂t = 0 ∀x,t
ここで ρ(x,t) は、位置x, 時刻tにおける相空間分布を表す。
・熱力学的な系は、ρ(x,t) が時間をかけて非常にゆっくり変化するとき熱力学的準平衡状態にある。
・平衡系は古典的な熱力学に従う。
※要は、時間-空間で動きが無い系を、平衡状態と呼んでいます。
※上の式にあまり悩む必要は無い。
※普通に知られている「古典的な熱力学」は、平衡状態を扱っています。
【4】理論的バックグランド
・熱力学第一法則:
dU = δQ + δW
ここで
-- Q は系に移動した熱量。
-- W は系に作用した仕事。
※系のエネルギー変化は、出入りした熱量と仕事を合わせたものだ、ということ。
※つまりエネルギーは余計に増えたり減ったりしない、エネルギーは保存する、ということです。
・熱力学第二法則:
平衡ではない孤立系のエントロピーは常に増大し、やがて最大値である平衡に達する。
あるいは:
dS = δQrev / T ≧ 0
※この式がエントロピーの熱力学的な定義。
※系に出入りする熱量を、その系の「基準」となっている温度で割った値が、エントロピーの増減ということです。
※Qrev に付いている「rev」は、可逆な、という意味です。
【5】理論的バックグランド(2)
・定温条件下にある熱浴に接する系を考えてみよう。
・もし、系に対して仕事 W を為したなら、
初期状態と最終状態の間のトータルのエントロピー変化は、
ΔStot = W - ΔFsys / T ≧ 0
ここで、
-- ΔFsys は系の自由エネルギー差。
-- T は熱浴の温度。
※自由エネルギーとは、「利用可能なエネルギー」ということです。
※同じエネルギーであっても、摩擦熱は利用可能なエネルギーではありません。
※加えた仕事から、利用可能なエネルギーを差し引いた残りが「無駄にこぼれた分」。
※この「無駄にこぼれた分」が、トータルのエントロピー変化だということです。
【6】非平衡系
・次の式が成り立つような熱力学的な系は、非平衡状態にあると言う。
∂ρ(x,t) / ∂t ≠ 0
ここで ρ(x,t) は、位置x, 時刻tにおける相空間分布を表す。
・他の系とエネルギーを分け合っている系は、平衡ではない。
・自然界に見出されるほとんどの系は、平衡ではない。
・これらの系に、古典的な熱力学は当てはまらない。
※非平衡状態とは、時間-空間で動きがある系のことです。
※例えて言うなら、静止画が平衡状態、アニメーションが非平衡状態です。
【7】ゆらぎと微小系
・N個の粒子から成る理想気体を考えてみよう。
・粒子の運動エネルギーの分布は、マックスウェル-ボルツマン分布によって記述される。
<Etot_kin> = 3/2 N kB T
Var(Etot_kin) = 3/2 N (kB T)^2 ※ Var は分散という意味。
・ゆらぎは 1/√N のオーダーとなる。
※要は、気体にもこれだけの揺らぎがあるのだぞ、ということが言いたい。
※式の内容について深く悩む必要は無い。
【8】ゆらぎの定理
・数少ない変数だけによって、平衡系は記述できる。
・非平衡系は、同じようには記述できない。
・系の状態をあいまいにせずに規定するには、コントロールパラメータという変数を特定しなければならない。
それ以外の変数は揺らいでいてもかまわない。
例えば、定温状態下での水中の単分子鎖では、
コントロールパラメータ = 長さ
コントロールパラメータ = 力
【9】Crooks'ゆらぎ定理 (CFT)
G. E. Crooks, Phys. Rev. E 60, 2721 (1999)
・一定温度の熱浴に接している有限な古典系を考えてみよう。
・コントロールパラメータλ(t)によって記述されるような時間に依存する過程によって、平衡ではなくなる。
・系の挙動には、次のことが要求される:
-- 確率的
-- マルコフ過程
-- ミクロ可逆性
※Wikipedia:マルコフ過程
※「未来の挙動が現在の値だけで決定され、過去の挙動と無関係であるという性質を持つ確率過程である。」
※ミクロ可逆性とは、
※ミクロの世界においては、どんな変化にも「行きがあれば帰りもある」ということ。
【10】Crooks'ゆらぎ定理 (2)
・Crooks'ゆらぎ定理とは、
PF(s) / PR(-s) = exp(s / kB)
ここで
-- s は、一定時間での系と熱浴のエントロピー生成である。
-- PF/R(s) は、与えられたエントロピー生成の、順方向変化/逆方向変化の確率である。
・CFT は、一定の示強性変数で特徴付けられる熱浴に接している系について、一般化される。
※ここんとこが肝なので、気合いを入れて見ましょう。
※ F は Forward、つまり順方向のこと。R は Reverse、つまり逆方向のこと。
※PF(s)とは、エントロピーSが生じるような順方向の変化が起こる確率。
※PR(-s)とは、エントロピーSが生じるような(マイナスなので減少するような)逆方向の変化が起こる確率です。
※「エントロピー生成sが大きくなるほど、順方向の変化の確率が、逆方向に比して指数的に大きくなる」
※ということを言っている。これ、なんとなくわかるかな?
※エントロピーが減少するような逆方向の変化が、絶対に起こらないとは言っていない。
※ただ、起こる確率が指数的に小さくなるので、sがある程度以上だと、確率的にほとんど0になるってこと。
※逆に、sが比較的小さな値であれば、順方向、逆方向の変化は、この式が示す確率で揺らぐことになる。
【11】CFT: まとめ
・かくして我々は次のことを知った
PF(s) / PR(-s) = exp(s / kB)
そして、エントロピー 〜 もといエントロピー生成 〜 は量を外延したものである、
つまり、系の体積(ボリューム)増加にともなって増加する。
・この定理は、ロシュミットのパラドックスを解決する。
「ミクロな力学の法則が時間反転に対して不変なら、
エントロピーが減少する過程があるはずで、
明らかな熱力学第二法則の破綻となる。」
【12】Crooks'ゆらぎ定理の検証
(RNA分子を直接引っ張る実験)
上下のビーズの位置の違いがコントロールパラメータ。
RNA分子のゆらぎを引っ張るのに仕事が必要。
※いつも思うのだけれど、ナノテク、パネェっす。
【13】Crooks'ゆらぎ定理の検証(2)
・折りたたみ、引き延ばしの過程は時間反転対称になっている必要がある。
・分子の変形が平衡からスタートして、はっきりとした最終状態に至るなら、CFTの予想は
PF(W) / PR(-W) = exp( (W - ΔFsys) / kB T )
s = ΔStot = exp( (W - ΔFsys) / T ) なので。
・CFTは、折りたたみ、引き延ばしの過程の直後に系が最終的な平衡状態であることを要求しない。
※ここに出てくる式、上と比べてみると、いつの間にか(s)が(W)に置き換わっている?
※これ、確率を改めてWの関数として書き直してみました、ということなのです。
※下に書いた「Wikipedia英語版:Crooks揺らぎ定理」の訳に
※ > 同じ仕事が得られる全ての軌跡をグループにまとめれば、
※ > 上の式は、仕事の分布関数として次のように書き直すことができる
※とあるのを見て、やっとわかった。(私はここでずいぶん悩んだ)
※この「仕事の分布関数として捉える」というところが、次のJarzynski等式のステップに必要なのです。
【14】
(結果のグラフ)
【15】CFTの証明
【16】CFTの証明(2)
(省略)
・続きはホワイトボードにて。 ※ ・・・( -∇-)
【17】CFT: 1事例としての Jarzynski等式
C. Jarzynski, Phys. Rev. Lett. 78, 2690 (1997)
・系が平衡状態からスタートして、平衡状態で終わるなら、CFTより、
PF(W) exp( - (W - ΔFsys) / kB T) = PR(W)
・これを W について積分すれば、Jarzynski等式が得られる。
< exp( - (W - ΔFsys) / kB T) > = 1
<=等価=>
exp( - ΔFsys / kB T ) = < exp( - W / kB T ) >
ここで < > は、2つの(スタートとゴールの)平衡状態間にある多数の非平衡過程の平均をとる、という意味だ。
※いよいよJarzynski等式が出てきました。
※P(W)は確率なのだから、全ての仕事Wについてまとめれば ∫P(W)dW = 1 になっています。
※なので、あらゆる仕事について、つまりあらゆる途中の経路について平均したものは、
※ < exp( - (W - ΔFsys) / kB T) > = 1 となっています。
※ΔFsys は経路によらず、系の最初の状態と最後の状態で決まる状態量ですから、経路によって変化するのは W だけです。
※こうして Jarzynski等式
※ exp( - ΔFsys / kB T ) = < exp( - W / kB T ) >
※が得られます。
※さて、このJarzynski等式とは、一体何を言っているのか。
※式の左辺は系に変化の最中に蓄えられた自由エネルギーの差であって、結局のところ系の最初の状態と最後の状態の「落差」だけで決まります。
※一方、式の右辺は <平均値> であり、実際に取った経路によって、大きくなることもあれば小さくなることもあります。
※たとえば急激にエイヤッと仕事を加えたり、ゆっくりジワジワを仕事を加えたりする違いによって、系に加わる仕事の大きさは変わってきます。
※ところが、そのいろんな仕事の加え方の <平均> をとると、それは自由エネルギーの差に関係する、とある一定値に等しくなる。
※そのようにJarzynski等式は主張しているのです。
【18】Jarzynski等式(2)
・Jarzynski等式は、任意に平衡から離れた系について成り立つ。
・凸関数についてイェンゼンの不等式を適用すれば、
Jarzynski等式から熱力学第二法則は、容易に示すことができる。
・Jarzynski等式は、2002年、可逆、非可逆共に、高分子を折りたたみ、引き延ばしすることによって検証された。
※イェンゼンの不等式とは、また聞き慣れない言葉かもしれませんが、
※要は「相加平均≧相乗平均」というやつの親分のような関係式です。Wikipedia:イェンゼンの不等式
※Jarzynski等式の場合、指数関数が凹型にへこんでいるので、
※自由エネルギー変化は加えた仕事よりも少なくなると言えます。
※Jarzynski等式が重要なのは、それが「等式」である、ということです。
※よく知られている熱力学第二法則、エントロピーは増大する、というのは「不等式」です。
※実は、熱力学第二法則はJarzynski等式の特別な場合となっているのです。
【19】Jarzynski等式の検証
(RNA分子を直接引っ張る実験)
【20】
(実験結果のグラフ)
【21】CFT: もう1つの事例、Gallavotti-Cohen's ゆらぎ定理
G. Gallavotti, E. Cohen, Phys. Rev. Lett. 74, 2694 (1995)
・時間対称で周期的な過程にある系は、非平衡定常状態に落ち着く。
・コントロールパラメータも時間対称であるところから始めれば、
CFTは幾つ目の周期に対しても成り立つので、
P(s) / P(-s) = exp( s / kB )
ここで
-- s は、一定時間での系と熱浴のエントロピー生成である。
-- P(s) は、与えられたエントロピー生成に対する、系の変化に沿った確率である。
【22】GCゆらぎ定理(2)
・系が同じ確率分布で始まり、そして終わるなら、エントロピー生成の平均は、
系に移動した熱量のみに依存する。
・近似的に
s ≒ -Q / T
ここで Q は時間tのうちに、熱浴から系に移動した熱量である。
・長時間の極限で、Gallavotti-Cohen's ゆらぎ定理が得られる。
lim[t→∞] P(Q)/ P(-Q) = exp( Q / kB T)
【23】GCゆらぎ定理(2)
・Gallavotti-Cohen's ゆらぎ定理は、
比較的小さくて測定の難しい系のミクロなエントロピーを単純に無視している。
・この定理は漸近的に正しい。一方、Crooks'ゆらぎ定理は常に有効である。
・この定理は2005年に検証に成功した。
定常流を注入することで非平衡定常状態に置かれた小さな電気双極子による、
パワー注入、あるいは消失の確率分布を集計することによって。
(N. Garnier and S. Ciliberto, Phys. Rev. Lett. 71, 060101(2005))
【24】まとめ
・揺らぎは小さな系では無視できない。
・小さな系の非平衡熱力学で、解析的な関係はほんの小数しか知られていない:
それらがいわゆる「ゆらぎの定理」だ。
・エントロピー減少の過程は不可能ではないが、マクロな系では指数的に実現しなくなる。
(熱力学第二法則は破れてはいない)。
・ゆらぎの定理は、非平衡過程を用いた2つの平衡状態間の自由エネルギーの測定を可能にする
(CFT と Jarzynski等式)。
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以下、Wikipediaの英語版を訳してみました。
* ジャルジンスキー等式 >> http://en.wikipedia.org/wiki/Jarzynski_equality
ジャルジンスキー等式(JE)とは、2つの平衡状態間の自由エネルギーの差と非平衡過程を関係づける、統計力学の等式である。
1997年にこの式を導出した、物理学者 Christopher Jarzynski(当時、ロス・アラモス国際研究所)にちなんで名付けられた。
熱力学において、2つの状態間の自由エネルギーの差 ΔF = FB - FA は、系に為された仕事Wに対して次の不等式で結びつけられる:
ΔF ≦ W
等号は準静的過程でのみ起こる、つまり、AからBまで限りなくゆっくり移行したときだけである。
上の熱力学的な記述とは対照的に、JEはいかに速く変化が起こっても有効である。
等式そのものは、Crooks揺らぎ定理から直接導くことができる。
JE等式とは:
exp(-ΔF/kT) = < exp(-W/kT) > ※ < > は平均を表す記号です.
ここでkはボルツマン定数、Tは平衡状態Aにある系の温度、あるいは同じことだが、系が変化を始める前に接していた熱源の温度である。
上の式は、平衡状態Aから、一般的には平衡状態Bと同じ外部条件下にある新たな非平衡状態へと至る、系が取り得る外部過程の全ての平均を示している。
(教科書にあるようなピストンで圧縮された気体を例にとってみよう、
ピストンが位置Aにあるとき気体は平衡状態にあり、ピストンが位置Bにあるとき気体は圧縮されていたとする;
ジャルジンスキー等式では、気体の最終的な状態は、その新たなピストンの位置において平衡状態である必要はない。)
限りなくゆっくり変化させるという制限下では、実現し得る個々の系に作用する仕事Wは数値的に等しくなるので、
平均をとる意味がなくなり、ジャルジンスキー等式はもっと簡単な熱力学の等式 ΔF =
しかしながら一般的には、Wは系の特定の微視的な初期状態に依存し、
たとえその平均が ΔF に関係し得たとしても、JEにイェンゼンの不等式を適用すれば、すなわち
ΔF ≦ <W>
これは熱力学第二法則に合致する。
最初に導出されて以来、ジャルジンスキー等式は、生体分子の実験から、数値シミュレーションに至るまで、様々な状況下で確かめられてきた。
他にも幾多の理論的な導出があり、その普遍性をより確かなものにしている。
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* Crooks'揺らぎ定理 >> http://en.wikipedia.org/wiki/Crooks_fluctuation_theorem
Crooks揺らぎ定理とは、非平衡過程の下である系に対して為された仕事を、変化の最初の状態と最後の状態間の自由エネルギーの差に結びつけた統計力学の等式である。
非平衡過程の間、系は体積一定であり、熱源に接している。
CEは、1998年に発見者である化学者 Gavin E. Crooks(当時、カリフォルニア大学)にちなんで名付けられた。
CEは、より一般的な「揺らぎ定理」の特殊な例である。
系の一般的な反応座標を、構成する粒子のデカルト座標上の関数として(つまり、2粒子間の距離として)捉えたとすれば、
反応状況の経路に沿った各点におけるエネルギーは、あるパラメータλによって特徴付けられる。
そこでの λ = 0 と λ = 1 は、反応座標の拘束条件として、それぞれが2つの微視的な状態の集合(アンサンブル)に対応付けられている
任意のタイムスケジュールで、λが0から1へと変わるような動的な過程を順方向の変化とし、それを時間反転した経路を逆方向の変化としよう。
これらの定義を与えたなら、CEは次の4つの量の間の関係を規定する。
・ P(A→B) : λ = 0 に対応する正準集合(カノニカルアンサンブル)から採った微視的状態Aと、正方向の変化を行った後のλ = 1 に対応する微視的状態Bの同時分布。
・ P(B→A) : λ = 1 に対応する正準集合(カノニカルアン サンブル)から採った微視的状態Bと、逆方向の変化を行った後のλ = 0 に対応する微視的状態Aの同時分布。
・ β = (kB・T)^-1 : ここで kB はボルツマン定数、T は熱源の温度。
・ WAB : 順方向の(AからBへの)変化において、系に対して為された仕事。
・ ΔF = F(B) - F(A) : 状態A,B間のヘルムホルツの自由エネルギーの差。
(それぞれが λ = 0 と λ = 1 の微視的状態の正準(カノニカル)分布に代表されるような状態AとBの)。
CE等式は次のようにして導かれる。
P(A→B) / P(B→A) = exp[ β(WA→B - ΔF) ]
上の式において、差 WA→B - ΔF は、順方向の変化での仕事の消失 Wd ということである。
確率 P(A→B) と P(B→A) は、変化が限りなく遅いスピードで行われたとき、同じになる。
つまり、準静的過程のことだ。
この場合、WA→B = ΔF であり、Wd = 0 となる。
時間反転の関係 WAB = -WB→A を用いて、
そして(順方向と逆方向の変化において)同じ仕事が得られる全ての軌跡をグループにまとめれば、
上の式は、仕事の分布関数として次のように書き直すことができる
PA→B(W) = PB→A(W)・exp[β(W - ΔF)]
ただし逆方向の変化では、仕事の分布関数は符号を逆にして評価する必要がある。
順方向と逆方向の2つの仕事の分布関数は、 W = ΔF で交わる。
以上のことは、光ピンセットを用いて短鎖ヘアピン型RNAとRNA三重らせん連結を折りたたんだり引き延ばしたりする実験によって確かめられている。
CEは、Jarzynski等式を示唆している。
※ 続きは「一般化されたJarzynski等式とは何か」>> [id:rikunora:20101207]