奇跡も、魔法も、あるんだよ

最近、本当にあるのではないかと思い始めています。
アニメの話ではありません、現実の、ナノテクノロジーの話です。
きっかけとなったのは、次の一報の論文です。

A Molecular-Sized Tunnel-Porous Crystal with a Ratchet Gear Structure and Its One-way Guest-Molecule Transportation Property
http://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/nr
Nanoscale, 2012,
DOI: 10.1039/C2NR30880K,

英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)の雑誌、"Nanoscale"に掲載されています。
どうしてこんな論文を見つけたのか。
私は甦るMaxwellの悪魔というホームページを作成しているのですが、
上の論文は、そのホームページの掲示板で紹介されていたものです。
論文の著者は、岡山大学 分子設計学研究室のグループ、
「最近、我々のグループで細孔性有機結晶内の1次元トンネル内で分子を一方方向へ動かすことに成功しました。」
というコメントが付いていました。

論文には、こんな感じの写真が掲載されていました。

この図は何かというと、ナノテクで作った非常に細い〜分子1個がやっと通れるくらいの細いトンネルの中に、
アントラセン分子が入り込んだ様子を表しています。
アントラセンは紫外線を当てると青白い蛍光を発するので、トンネル内にどのように入り込んでいるかを見てとることができます。
このナノ・トンネルを作った(再結晶させた)直後には、アントラセン分子はトンネル内に均一に入っていました。
それが2日後に見てみると、トンネルの片方の端に自然に集まってきていたのです。
問題は、いったい何の力でアントラセン分子は動いたのだろう、という点です。
このナノ・トンネルには秘密があって、
 ・天井と床はフッ素で、
 ・側壁はノコギリの歯のように、ギザギザに配置されたナフタレンで、
できています。
フッ素というのは、あらゆる元素の中で最も電気陰性度が大きいので、
そのおかげでナノ・トンネルが潰れたり、ふさがったりしないのです。
(トンネルの天井と床がフッ素コーティングでツルツルになっている、といった感じ)
また、側壁のナフタレンがノコギリの歯状に配置されているため、
トンネル内の形状は「行きと帰りが異なる」、異方向性を有しています。
こうしたナノ・トンネルの形状から想像するに、きっとアントラセン分子は
「ねこじゃらしの毛」に導かれるようにして動いたのでしょう・・・

・・・って、ちょっと待った!
これってマックスウェルの悪魔になっているのではないでしょうか。
アントラセン分子は何のエネルギーで動いているのか。
きっと分子がモゴモゴ振動する運動 〜 熱振動によって動いているのでしょう。
他に何の力も加えずに、熱振動だけで物体が動いたということは、
身の回りにある気温のエネルギーだけで、物体を意図した方向に動かすことができる。。。
つまり、もう原子力なんて要らない!ってことなんでしょうか。

ノコギリの歯のような仕組みで、熱振動から利用可能なエネルギーを取り出す試みは、
以前から何人もの人が考えてきました。
有名なのは「ファインマンのラチェット」でしょう。

図のように、分子くらいの小さな「歯車とかぎ爪」を作れば、
歯車は熱振動の力で一方向だけに回転することになる。
そうすれば、熱振動からいくらでもエネルギーが取り出せるのではないか、というものです。
しかしならが、もしこんな仕掛けを作ったとしても、
歯車は意図した向きには回らないだろう、というのが今日の見解です。
もし回ったとしたら、物理の法則はメチャクチャになってしまいます。
「歯車とかぎ爪」の動きを力学的に検討しても、やはり一方向に回転するはずがないのです。

ところが、ナノ・トンネル内のアントラセン分子は、とにかく実際に動いています。
一体なぜ動くのか、説明が付かない。
こんなの絶対おかしいよ!
私も自分なりに考えているのですが、まだこれぞといった理由が思い当たりません。
もし理由を思い付いた人、教えてください。
もちろん、慎重に考える必要はあるかと思います。
つい最近も「超光速ニュートリノ騒動」があったばかりです。
フタを開けてみると、「なぁ〜んだ、そんなことか」となる可能性は高い。
それでも、ナノの世界には、まだまだ思いもよらない現象があるのだと感じました。
*参考 >> wikipedia:ブラウン・ラチェット