Maxwellの悪魔を本気で甦らせる

ここ最近忙しかったことと、ちょっとした心境の変化みたいなものがあって、長らくブログ更新を怠っていました。
心境の変化というのは、このブログを作るきっかけとなった「Maxwellの悪魔」を本気で甦らせる気になった、ということです。
* 甦るMaxwellの悪魔 >> http://brownian.motion.ne.jp/

その第一弾として、智のシンポジウムという場でお話をします。
* 第5回 智のシンポジウム −文明・文化と科学技術− >> http://sym123.web.fc2.com/
タイトルは「甦るMaxwell の悪魔 ― 熱力学第二法則の意味を問う ―」です。
ひょっとすると第二弾になるかもしれないのが、ニコニコ学会βです。
* 研究してみたマッドネス 応募一覧 >> http://nicores3.herokuapp.com/
#マッドネス18発表者:「魔法少女まどか☆マギカエントロピー
・・・というタイトルで応募したので、気に入ったら1クリックをお願いします!

第一弾に参加のきっかけは、知人が面白そうだと評価してくれて、急遽飛び入り参加を認めてもらったことです。
第二弾に参加のきっかけは、@hamham さん https://twitter.com/hamham から推薦頂いたことです。
推してくれた方には、本当に感謝しています。
# もともと第二弾で推薦いただいたのは統計学についてでしたが、
# Maxwellの悪魔の方が発表準備が整っていたので、演題をこちらに変更しました。
# ニコニコ学会βの他の研究は、なんだかすごいものばかりなので、私が入るのは難しい気がする。。。

さて、Maxwellの悪魔について、私が主張したいことは、

【命題】
可逆な構成要素のみを用いて、ランダムな熱揺らぎから、一方向に巡回するエネルギーの流れを取り出すことができる。

どういうことか、以下に問題提起しましょう。

非常に小さなナノスケールの容器の中に、左右に自由に動く1枚の隔壁と、
隔壁の左右に1個ずつ、計2個の分子が入ったものを考えます。

図中の黄色い四角が隔壁、緑の丸が分子です。
隔壁と分子は衝突しながら、左右に行ったり来たりする運動を繰り返しています。
運動の様子は、以下のJavaアプレットで見ることができます。

* シミュレーション1:衝突運動【断熱条件】>> http://brownian.motion.ne.jp/jsim/JSim01.html

分子の動きをよく見ると、隔壁に押されて狭くなった方が、より高速になっています。
分子を「ただ1個の分子から成る理想気体」だと見なせば、気体は隔壁に圧縮されて高温になったのだと言えます。

それでは、左右の分子運動ができるだけ同じになるように調整したら、どうなるか。

* シミュレーション2:衝突運動【等温条件】>> http://brownian.motion.ne.jp/jsim/JSim02.html

 ↑これが、「温度を等しくした」場合です。
等しくなるように、分子が外枠の容器と反射する際に適当な乱数値を加えています。
一見分かり難いですが、分子が押されたときの速度の上がり方が、シミュレーション1よりも穏やかになっています。

この容器に、隔壁を一瞬で別の位置に移動させるような仕掛けを用意します。
この仕掛けのことを「ワープゾーン」と呼ぶことにしましょう。
(よくRPGダンジョンに登場する、あの仕掛けことです!)

上の図でグレーに塗られた2本の帯が「ワープゾーン」です。
2本の帯のうち、中央にあるものを「中央ゾーン」、左側に位置するものを「左側ゾーン」としましょう。
ワープゾーンは隔壁に対して、次の操作を行います。

【操作+】
もし隔壁が中央ゾーン内にあって、左右の分子が2つのゾーンの外側にあれば、
 → 隔壁を中央ゾーンから左側ゾーンに移動する。

【操作−】
もし隔壁が左側ゾーン内にあって、左右の分子が2つのゾーンの外側にあれば、
 → 隔壁を左側ゾーンから中央ゾーンに移動する。

※「左右の分子が2つのゾーンの外側にあれば」とは、
※「左側の分子が左側ゾーンよりも左にあって、右側の分子が右側ゾーンよりも右にあれば」という意味。
※ 要は2個の分子が常に隔壁の左右に分かれるようにする、ということ。

この2つの操作、【操作+】と【操作−】は全く逆の関係になっています。
このような仕掛けを用意したとき、果たして【操作+】と【操作−】は、どちらがより多く行われるでしょうか?

* シミュレーション3:ワープゾーン【断熱条件】>> http://brownian.motion.ne.jp/jsim/JSim03.html

結果は【操作+】と【操作−】では同等となり、どちらか一方が優勢になることはありません。

# 実際に回数を確認するには、かなりの時間を要します。
# 上のグラフは約1500分=25時間かけて取得しました。

ここでさらに、左右の分子の「温度を等しくして」操作の回数をカウントしたら、どうなるか。

* シミュレーション4:ワープゾーン【等温条件】>> http://brownian.motion.ne.jp/jsim/JSim04.html

すると、【操作+】の方が【操作−】よりも数多く行われます。

ここで、最後の結果について、よく考えてみてください。
操作の回数に差があったということは、

・左側では、気体分子が容器(外界)からエネルギーを受け取る傾向が強く、
・右側では、気体分子が容器(外界)にエネルギーを受け渡す傾向が強く、
・容器全体として見れば、エネルギーが左から右に移動している、

ことになります。
これが、【命題】一方向に巡回するエネルギーの流れを引き起こす、という意味です。

重要なポイントは、【操作+】と【操作−】が正反対の、可逆な操作であるという点です。
可逆な操作であれば、原理的に自由エネルギーの消費を必要としません。
ランダウアーの原理によれば、自由エネルギーの消費は情報を散逸する過程、
つまり「メモリーをリセットする」過程で生じます。
もし、こうした装置が可逆に構成できれば、リセットすべきメモリーは何処にも見当たらないということになります。

つっこみどころはたくさんあると思いますが、それらにいちいち応えていくと大変なボリュームになってしまいます。
私自身は、たとえ上のようなエネルギーの流れが生じたとしても、
熱力学第二法則には違反しない 〜 第二種永久機関にはならないだろうと考えています。

より詳しいシミュレーション結果を知りたい人はこちらへ、
* 計算機実験編 >> http://brownian.motion.ne.jp/exper/index.html
このシミュレーションは、もともと FORTRAN で行っていました。
現在Javaに移植中です。
* JavaApplet編 >> http://brownian.motion.ne.jp/jsim/
理論的な背景が知りたい人は、以下を参照してください。
* ダイジェスト >> http://brownian.motion.ne.jp/digest/index.html
* 理論編 >> http://brownian.motion.ne.jp/index_theory.html