大栗先生の「重力をめぐる冒険」

先週末の6/2、大栗博司先生の「重力をめぐる冒険」という講座を聞きに行きました。
今回の講座は、以前2月に行われた「重力のふしぎ」という講座の続編にあたります >> [id:rikunora:20120213]
前回の「重力のふしぎ」は、通常大学で1年半かかる相対性理論を1時間30分にまとめた内容だったのですが、
今回の「重力をめぐる冒険」は、相対論〜量子論超弦理論まで、大学で4年間かかるところを4時間にまとめた内容でした。
それだけでなく、今回の講座にはブログ友達のオフ会という、もう1つの楽しみもありました。
この講座を通じて、これだけのブログ友達とお会いすることができました。

* とねさん:とね日記 >> http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw
* 271828さん:271828の滑り台Log >> http://blog.goo.ne.jp/slide_271828
* EROICAさん:一般相対性理論を制覇しよう! >> http://blog.livedoor.jp/taro314159265
* nagataさん:白髭記 >> http://blogs.yahoo.co.jp/ryuuzei

あと、忘れてはいけないのが、大栗先生ご自身のブログ。
* 大栗博司のブログ >> http://planck.exblog.jp/
先生は非常なご多忙の合間をぬって、こうしたブログを書き、コメントにも1つ1つ丁寧に答えて下さっています。
この講義の後も「土曜日の深夜に羽田空港を発ち、フランクフルト経由でイスラエルに」向かったのだそうです!

さて、4年間が4時間に圧縮されたお話はかなり高密度だったので、ここに全てを書くことはできません。
特に印象に残ったことだけをピックアップします。

■ 究極の理論は存在するのか?
この宇宙は、どんな部品からから成り立っているのか。
私たち人間は、たくさんの細胞から成り立っていて、
 細胞は、DNAなどの分子から成り立っていて、
  分子は、原子から成り立っていて、
   原子は、原子核と電子から成り立っていて、
    原子核は、陽子と中性子(と中間子)から成り立っていて、
     核子クォークから成り立っていて、、、
      では、クォークは、何から成り立っているのか?
       この連鎖は無限に続くのか?
        それとも、いつかは究極の理論に行き着くのか?
栗先生によると、究極の理論はある とのこと。
より小さなものを見るためには、より高いエネルギーが必要となります。
光学顕微鏡よりも電子顕微鏡の方が、より小さなものが見えるのは、
電子顕微鏡の方がより高エネルギーで短波長だからです。
では、エネルギーを高くすれば、いくらでも小さいものが見えるのか。
うんと小さい領域に、ものすごく高いエネルギーを集中させたら、どうなるか。
アインシュタインの有名な公式
  E=mc^2
によると、エネルギーは質量と等価だということです。
超高エネルギーは、超大質量と同じことなので、エネルギーを大きくしてゆくと、いつかはそこにブラックホールが生じます。
ブラックホールの内部は観測できないので、高エネルギーの限界=小さなものを見る限界は、ブラックホールが生じるところまでとなるわけです。
この小ささの極限のことをプランクスケール"PlanckScale"と言って、大栗先生のブログでのハンドル名にもなっています。

量子力学と特殊相対論が融合すると「反粒子」が予言
現代物理の柱となる二大理論、量子力学と特殊相対論を結婚させると、そこから「反粒子」の存在が予言される・・・
このことを“数式抜きで”説明できる人、いますか?
ここまで非日常的な世界は、もはや簡単に把握することは不可能で、難解な数式を通じてのみ理解できるのであろう・・・
そのように私は思っていたのですが、必ずしもそうではなかったのです。
今回のお話の中で、特に目からウロコだったのが、この反粒子の直観的な説明でした。
講義の中では、次の3ステップで「反粒子」のイメージを描きだしていました。

 1.過去に向かう粒子は反粒子
 2.量子力学では超光速粒子も考える
 3.相対論では超光速粒子は過去に戻れる

本来なら相当奥深い内容のはずですが、それをとことんまでブレークダウンしてイメージできたのは収穫でした。
この「反粒子」のイメージを知りたい人は、ぜひこの本を手にとってみて下さい。

* 素粒子物理学者が書いた重力の本 >> http://planck.exblog.jp/18016697/

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

反粒子」のイメージのためだけにでも、この本を読む価値があります。
この「重力とは何か」という本は、ほとんど数式抜きで、相対論〜量子論超弦理論までの道筋をやさしく解説したものです。
反粒子についてもそうなのですが、この本の特色は「やさしい説明であっても全くごまかしが無い」ところにあると思います。
「E=MC^2」の説明をはじめ、一見やさしく見える説明が、実はとてもよく考え抜かれていると感じます。
ただ、もう相対論や量子論は知っているよ、という人にとっては得るところは少ないでしょう。
そういう人は、もう1レベル上のこの本を手にとってみよう(笑)

素粒子論のランドスケープ

素粒子論のランドスケープ

*『素粒子論のランドスケープ』出版 >> http://planck.exblog.jp/17886478/
「トポロジカルな弦理論」の解説も載っているぞ。

■「トポロジカルな弦理論」が役に立つまで20年
1984年 超弦理論革命

グリーンとシュワルツによって、10次元の超重力理論および超弦理論アノマリーのない理論が存在することが示されると、超弦理論は脚光を浴びるようになった。
    >> wikipedia:超弦理論 より

この年、大学院一年生だった大栗先生は「隠された6次元空間の中に自然界の法則が書き込まれている可能性を、美しいと感じ」たということです。
しかし、「この6次元空間は複雑で、距離の測り方すらわかっていません」。
「距離さえ測れない空間を使って、いったい何がわかるのか。」
そんなことを、大御所の先生からも言われたのだそうです。
 ・・・それから約10年・・・
栗先生は「トポロジカルな弦理論」の方法を開発し、距離の測り方がわからなくても、素粒子模型の一部を計算することに成功しました。
すると、次には「トポロジカルな弦理論とやらで、どんな物理現象が説明できるのか」と言われたそうです。
考えついた当初は、何の役に立つのか、よくわからなかったのです。
 ・・・それからさらに10年・・・
トポロジカルな弦理論は、「ブラックホールの情報問題」を解くのに、大いに役立ちました。
 ・・・つまり、20年間考え続けた結果だということ。
これがいかにすごいことか、重みが伝わってきます。

■ 「超ひも」でなく「超弦」と言おう
前回もそうだったのですが、今回も先生はとにかくメチャクチャ楽しそうに話をされました。
たとえ内容が少しくらいわからなくても、聞いているだけで「なんか、超弦理論って、楽しそうだなー」という気になりました。
ところで「超弦理論」は、別名「超ひも理論」とも呼ばれています(英語では Superstring Theory)
どっちでも構わないのですが、私は「超ひも」よりも「超弦」の方が、俄然カッコイイと思っています。
実は以前、身近な人に「ミクロの究極は“超ひも”からできている」などと知ったかぶったところ、
「名前があまりにも情けない」と言われたことがあります。
「チョ〜」なんて、女子高生が付ける言葉みたい。
さらに「ひも」であるとは、なんだかその女子高生にたかって生きているみたいで、期待外れもはなはだしいと。。。
・・・どうせなら「超弦理論」の方が画数も多くて究極の理論にふさわしい気がします。
栗先生は「超弦」で統一されているようだったので、それに習って、
これから人に話すときには「超弦理論」と言うことにしよう。