多次元正三角錐の体積

2次元の正3角形、3次元の正4面体を延長した、4次元空間にある正三角錐の体積はいくつになるか。
さらに延長して、一般にN次元の正三角錐の体積はいくつになるか。

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4次元空間にある正三角錐のような図形は、正五胞体というのだそうだ >> wikipedia:正五胞体
ウィキペディアには『超体積: (√5/96)a^4』と書かれているが、これはどうやって計算したのだろうか。

いきなり4次元では想像が付かないので、目に見える2次元、3次元から類推しよう。
まず2次元の正方形、3次元の立方体を考える。
とある1つの頂点から伸びる辺を全て含むように平面で切り取った角錐のことを“コーナーブロック”と呼ぶことにしよう。

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“コーナーブロック”とは、上の図で青く塗った部分のことだ。
2次元の場合は直角2等辺三角形、3次元の場合は切り口が正三角形となるような三角錐である。

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4次元の場合、コーナーブロックの切り口は正4面体になる。
そして5次元であれば、コーナーブロックの切り口は4次元空間にある正三角錐(正五胞体)となる。
つまり、コーナーブロックの切り口が、知りたかったN次元の正三角錐の体積となっているわけだ。
そこで、[コーナーブロックの体積] -> [コーナーブロックの切り口] -> [N次元の正三角錐] という方針で、
N次元の正三角錐の体積を計算してみよう。

コーナーブロックが、もとの立方体の何分の1を占めるかを考えてみる。
2次元の正方形の場合には、見ての通り 1/2 だ。
3次元の立方体の場合には、(1/2)×(1/3) = 1/3! となる。
この延長で、4次元のコーナーブロックを考えると (1/2)×(1/3)×(1/4) = 1/4! になる。

なぜ (1/N次元) が掛け合わされるのか。
たとえば3次元空間の角錐は、1つの立方体を3つの方向に、同じ形に切り分けた一部分なので、元の立方体の 1/3 だと分かる。

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3次元のコーナーブロックは、2次元のコーナーブロックの底面に対して (1/3) を掛けるので、
結局のところ元の立方体の (1/2) × (1/3) となる。
4次元空間は絵には描けないが、きっと4つの方向に同じ形に切り分けた部分なのだから、
3次元のコーナーブロックの底面体に対して 1/4 を掛けたものになる。
以下、N次元空間ならコーナーブロックの体積は、元の立方体の 1/N! になる。

次に、コーナーブロックの、立方体の対角線に対する高さを考える。
2次元の(1辺の長さが1の)正方形の対角線の長さは√2、
3次元の(1辺の長さが1の)立方体の対角線の長さは√3、
N次元の(1辺の長さが1の)超立方体の対角線の長さは√N 。
コーナーブロックの高さは、その対角線の長さの 1/N となる。
2次元であれば、(高さ) = √2/2、
3次元であれば、(高さ) = √3/3 となる。

なぜ、コーナーブロックの高さが、ちょうど対角線の 1/N となっているのか。
その理由は、N次元立方体が等間隔に空間を埋め尽くすからである。
3次元で考えてみよう。

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図の立方体[A]に着目して、1つの頂点から反対側の頂点まで、→a, →b, →c と、3本の辺を伝って移動することを考える。
この →a, →b, →c 3本の辺の長さを、立方体[A] の対角線に投影したとき、3本の長さは等しくなる。
たとえば →b を取り上げてみたとき、立方体[A] の隣にある立方体[B] を想像すれば、
→b とは、ちょうど「立方体[B] にとって、立方体[A] の →a 」と同じ位置にある。
なので、→a と →b の、対角線に投影した長さは等しい。
→c についても同じである。
→c とは、ちょうど「立方体[C] にとって、立方体[A] の →a 」と同じ位置にある。
なので結局のところ、元の立方体[A] の対角線は、→a, →b, →c の投影によって3等分される。
この、「立方体が空間を埋め尽くす」という事情は、次元が幾つ上がっても変わらない(だろう)。
なので、N次元のコーナーブロックの高さは、いつでも対角線の 1/N となるわけだ。

以上で、コーナーブロックの体積と高さが分かった。
この体積を高さで微分することによって、切り口の面積(体積?!)を知ることができる。
まず馴染み深い(?!)3次元空間でやってみる。

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グラフの横軸xは対角線方向の長さ(高さ)、縦軸は切り口の面積S、Sの積分がコーナーブロックの体積Vに相当する。
3次元の場合、切り口の面積は高さの2乗に比例するので、S = a x^2 と置く。(今の時点で a は未知の定数。)
あとは高さxと、体積Vに、上の値を入れて a を計算すればよい。
  ∫[0~(√3/3)]{ a x^2 }dx = 1/3!
  a/3 (√3/3)^3 = 1/6
  a = 3√3 / 2
切り口の面積Sは、
  a x^2 = (3√3 / 2) (√3/3)^2 = √3/2

これが切り口の正三角形の面積に一致するはずだ。
一辺が1の正三角形の面積は √3/4 なのだが、今考えているコーナブロックの切り口にある正三角形の1辺の長さは√2である。
なので、
  S = (√3/4) (√2)^2 = √3/2
確かに一致しているので、どうやらこの方法で良さそうだ。

上と同じことを4次元でやってみよう。
この場合、切り口S には正4面体の体積が現れる。
  ∫[0~(√4/4)]{ a x^3 }dx = 1/4!
  a/4 (1/2)^4 = 1/24
  a = 8/3
  S = a x^3 = (8/3) (√4/4)^3 = 1/3

1辺が1の正4面体の体積は √2/12。
今求めた切り口S は、一辺が√2の正四面体なので、(√2/12) (√2)^3 = 1/3
確かに一致している。

さらに、5次元でやってみよう。
これで、知りたかった4次元正三角錐の体積が得られる。
  ∫[0~(√5/5)]{ a x^4 }dx = 1/5!
  a/5 (√5/5)^5 = 1/120
  a = 25√5/24
  S = a x^4 = (25√5/24) (√5/5)^4 = √5/24

これは一辺が√2の4次元正三角錐なので、一辺が1の体積は、
  S = (√5/24) / (√2)^4 = √5/96
確かに、Wikipediaに書かれている値と一致した。

以上を一般化して、(N-1)次元の正三角錐の体積が知りたかったなら、
  ∫[0~(√N/N)]{ a x^(N-1) }dx = 1/N!
  a = (√N)^N / (N-1)!
  S = a (√N/N)^(N-1) = N^N / {(N-1)! N^(N-1) √N}   <-- 一辺が√2 の(N-1)次元の正三角錐
一辺の長さを1にするには、このS を (√2)^(N-1) で割ればよい。
  V = S / (√2)^(N-1) = N^N / {(N-1)! (N √2)^(N-1) √N}