コーヒーミルクのマーブル模様

コーヒーにミルクを垂らすと、白と黒が雲のように複雑に入り交じったマーブル模様が浮かび上がります。

たった一度の偶然、同じ模様は2度とできません。
ところで、このマーブル模様はどうしてできるのでしょうか?
考えてみると、液体がすじ雲のようにたくさんの細い線を描くのは、ちょっと不思議に思えます。
もし単純にミルクがコーヒーの中に入り交じるだけであれば、
ミルクは最初に垂らした点を中心に、同心円状に広がるはずだと思うからです。
例えば、パソコンのお絵かきソフトでマーブル模様を作ろうと思ったら、かなり複雑なフィルター処理が必要でしょう。
下の絵は、お絵かきソフトの「ぼかし筆」で単純に描いたものです。

2つの液体が単純に拡散して入り交じるだけだったなら、途中の過程はこの絵のような「ぼかし状態」になるはず。
コーヒーとミルクが「ぼかし状態」にならないということは、そこには単純な拡散以上のメカニズムが働いているということでしょう。

2つの液体を混ぜると、はっきりマーブル模様ができる場合と、単純にぼかし状態のまま入り交じる場合があるように思います。
水にインクを垂らすと、やはり独特のマーブル模様が広がります。
一方、単純に入り交じる例を身近に探すと・・・ちょっと汚いのですが、おしっこは単純に入り交じるようです。
トイレの中で、おしっこがマーブル模様に広がるのを、見たことがありますか?
ということは、{ミルク,インク}と{おしっこ}では、何かが本質的に異なっているのです。

何が違うのか? そもそも液体でマーブル模様ができる理由は何なのか?
その理由は、根本的には分子間力にあるのだと思います。
もし、液体の分子同士に何の相互作用も無ければ、液体の混じり方は単純な拡散だけになるはずです。
最も考えやすいメカニズムは、2種類の液体同士の分子間力が異なっている、ということでしょう。
例えばコーヒー同士の結びつきの方が、ミルク同士の結びつきよりも強い、ということです。
おおざっぱに「コーヒーは水、ミルクは油」と思えば良いでしょう。
マーブル模様のメカニズムは、おそらく次のようなものではないでしょうか。
 ・コーヒー同士が強く結びついて、ミルクをはじき出す。
 ・はじき出されたミルクは、互いに寄り集まる。
 ・寄り集まったミルクがコーヒーカップ内の流れに乗ると、細い糸のようになって見える。

以上の「分子同士が引き合って集まる」というアイデアを、パソコンのシミュレーションで確かめてみました。
200個の丸い粒同士が、互いに引力で引き合うとどうなるか、というシミュレーションです。
* コーヒーマーブル・シミュレーション
>> http://brownian.motion.ne.jp/memo/CoffeeMable/CoffeeMable.html
(シミュレーションは Silverlight で出来ています。要 Silverlightプラグイン
 計算がかなり重たいので、非力なパソコンだと苦しいかもしれません。)
本来であれば、2種類の粒子を混ぜ合わせてみるべきだったのでしょうが、手間と計算能力のために手抜いてます (^^;

まず単純に、200個の粒子が互いに引力で引き合っていたとき、どんな動きをするのか。
粒子は互いに絡み合いつつも、全体としてはバラバラに飛び回っています。

画面上に並んだボタンによって、粒子に働く摩擦力を変えることができます。
最初の状態は [0%]、つまり摩擦が全く無い状態です。
実は、摩擦が全く無ければ、粒子はたとえ引き合っていたとしても、寄り集まって塊を作ることがありません。
なぜなら勢い(速度)を削がれることがないので、一度引き合った粒子同士は、また勢いで離れてしまうからです。

上のボタンの [2%] を押すと、粒子に少しだけ摩擦が働いている状態になります。

この状態だと、粒子は互いに引き合って、ほぼ中央の一カ所に集まってきます。
しばらく中央でゴニョゴニョした後、最後には1カ所で停止します。
※ 摩擦力=2% の意味は、描画フレーム毎に、粒子の速度に x 0.98 を乗じているということです。

摩擦力を [5%] にすると、粒子の集まり方の様相が少し変わってきます。

一直線に中央に集まるのではなく、まず近くにある粒子同士が小グループを作つつ、全体として中央に集まる、といった感じです。
この「小グループを作る」というところに、マーブル模様のメカニズムの原点があるのではないかと思います。
小グループを作る傾向は、摩擦力を [10%]、[15%] と上げるにつれて、より著しく目立つようになってきます。

どうやら摩擦力が高いほど、より小粒の集団がたくさんできるようです。

このシミュレーションで言う摩擦力とは、実際の液体の何にあてはまるのかと言えば、
粘度、つまり「粘り気」ではないかと思います。
感覚的には、緩くて水っぽい牛乳と、コーヒー専用のコッテリしたクリームの違いということです。
たったこれだけのシミュレーションでも、パラメータを変えると集まり方は微妙に変化してゆきます。
現実には、液体の種類や様相、流し方など、実に多種多様の模様が描けることになるわけで、
その結果、もはや伝統芸術の域に高められているみたいです。奥深し。

* すみに置けない墨流し
>> http://chem-sai.web.infoseek.co.jp/suminagasi.htm
* 水紋画ギャラリー
>> http://www5e.biglobe.ne.jp/~kuroda/