なぜ過密と過疎ができるのか

Q. なぜ一部の都会だけが栄えて、地方は寂れるのか?

この問いに、この場で完全に答えることはできませんが、シミュレーションを通じてヒントを掴むことはできます。

* 過密と過疎のシミュレーション (要Flash 11.1.0以上)
>> http://brownian.motion.ne.jp/memo/RndExchg/index.html

・10x10の正方形の区画の中に 1000人をランダムに配置する。
・以下の4つのルールで人を動かし、それぞれの区画にどれほど人口が集まるかを調べる。

■移動パターン1、全員が移動
  全員が一定速度で、バラバラな方向に、一斉に移動する。

■移動パターン2、自発的に引っ越し
  各員が一定の確率で、ランダムな引っ越し先に移動する。

■移動パターン3、2区画で移動
  ランダムに2つの区画を選び出し、一方の区画の中にいる適当な1名を、他方の区画に移動する。
  (選んだ区画の中に誰もいなかったら何もしない。)

■移動パターン4、全員移動+2区画
  上の移動パターン1と、移動パターン3を同時に行う。
  即ち、全員が一定速度で移動しつつ、
  ランダムに2つの区画を選び、一方から他方に1名を移動する。

・シミュレーション画面左側には、人口密度のヒストグラムが表示されている。
 横軸は区画内の人口、縦軸は区画の数を表している。

■移動パターン1、全員が移動

[全員が移動] のボタンを押すと、ピンクの点が区画の中をぞろぞろと動き出します。
それぞれの区画の人口密度は、多少のムラはあるものの、長い目で見れば平均を中心に上下しています。
ヒストグラム正規分布に近い形となります。
( [Running...] となっているボタンをもう1回押すと、移動は止まります。)

■移動パターン2、自発的に引っ越し

[自発的に引っ越し] ボタンを押すと、ピンクの点が時々別の区画にワープします。
この場合も、人口密度は平均を中心に上下動する形となります。
ヒストグラムは、やはり正規分布に近い形です。

■移動パターン3、2区画で移動

[2区間で移動] ボタンを押すと、ランダムに選んだ2つの区画の間で、ピンクの点の移動が行われます。
しばらく見ていると、区画の中に、点が極端に集中するものと、まばらになっているものが表れてきます。
この変化はヒストグラムにも表れます。
当初、ヒストグラム正規分布に近い形をしていますが、
しばらくすると、滑らかな一極集中型 〜 指数分布に近付いてきます。

「ランダムなものをランダムにかき混ぜても、結果は変わらないだろう。」
そんな風に思えるかもしれませんが、事実は違います。
このように、「2つの区画間で移動」を繰り返すと、自然に濃い部分と薄い部分が生じてくるのです。。
特に不思議なのが、「移動パターン2、自発的に引っ越し」と、「移動パターン3、2区画で移動」の結果が異なる点でしょう。
どちらのパターンも、ただランダムに点を移動しているだけに過ぎません。
ただ、その移動の仕方が違うのです。
移動の仕方によって、一方は均一に散らばったまま、他方は過密と過疎、といった結果が分かれてくるのです。

■移動パターン4、全員移動+2区画

最後に、「全員の移動」と「2つの区画間での移動」を、同時に行ってみました。
結果は、正規分布と指数分布を合わせたような形となります。
このように、
 ・平均を中心に上下動する、正規分布型の傾向、
 ・過密と過疎を作り出す、指数分布型の傾向、
2つの傾向が混在しているというのが、現実に最も近い状況なのだと思います。

以上のことがらは、統計力学の世界では以前から知られてきたことです。
それでも、こうして改めて視覚化してみると、実に不思議な傾向と言わざるを得ません。
特に、移動パターン2と、3では、いったい何が違うのか。
結果は上で見た通りなのですが、私は今でも、時折考え込んでしまいます。
また、ここでは「都会と過疎地」という問い立てで話を進めてきましたが、
同じことが「金持ちと貧乏」、「大企業と中小企業」、「天才と凡人」にも当てはまるのではないでしょうか。
いずれにせよ、「ただランダムな操作を繰り返すだけで、自然に一極集中が生じる」という事実は、
ぜひ知っておきたいことだと思うのです。

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● 12/04 追記

コメントで「こんなの都市の一極集中とちゃう!」とのご意見いただいたので、さらに追加します。
一般に、都市の人口と、その順位は“ジップの法則”に従うと言われています。
日本の都市の場合は(なぜか)対数正規分布といった形になります。

  * ニコニコ動画と日本の都市人口の意外な関係 >> [id:rikunora:20140328]

上のようにランダムな移動の結果できるムラは「指数分布」
都市のように、人が集まるところにますます人が集まった結果できるのはべき分布です。
両者には似たところもありますが、生成メカニズムは大きく異なります。
その意味で、「こんなの都市の一極集中とちゃう!」というのは全く正しい意見です、はい。

■移動パターン5、人の多い方に移動
  ランダムに2つの区画を選び出し、人口に比例する確率で、一方の区画の中にいる適当な1名を、他方の区画に移動する。

■移動パターン6、全員移動+2区画
  上の移動パターン1と、移動パターン5を同時に行う。
  即ち、全員が一定速度で移動しつつ、
  ランダムに2つの区画を選び、一方から他方に人口に比例する確率で移動を行う。

■移動パターン5、人の多い方に移動

人が集まるところに、その人口に比例してますます人が集まる、という状況をシミュレートすると、こうなります。
値がグラフの端から飛び出してしまいました。

■移動パターン6、全員移動+2区画

人が集まる傾向に、さらに移動を加えると、こんな風になります。
おもしろいことに、適度な移動を加えると、区画同士を横断した「メガロポリス」が出現します。
日本で言えば首都圏のようなものでしょうか。
上の移動パターン5の場合、区画間のワープ移動しか無いので、近隣といった概念がありません。
(近くの区画でも、遠くの区画でも同じ程度の重み。)
このパターン6では近隣区画への移動がありますから、大都市の近郊という概念が生じます。
すると、結果的に最大の大都市とその近郊に全てが集まってくることになります。
一度メガロポリスが形成されると、その後、状況は簡単には変わりません。

まとめると、
 ・最初は全くの偶然であってもムラができる -> 指数分布型
 ・人気のある所にますます人が集まった結果、集中が起こる -> べき分布
 ・都市の近郊に移動する人がいると、メガロポリスを形成する。
これが実情に合っているのではないでしょうか。