水滴・油滴に見るべき乗則

水滴同士がくっついて集まる過程に、統計的な規則はあるのだろうか?
数え上げたところ、どうやら「べき乗則」に従っているようです。

雨上がりのステンレスの欄干を見ると、美しい模様ができていました。

これを写真に撮って、拡大してプリントアウトし、大きさごとに色分けしつつ数えてみました。

大きさ (mm) 個数
特大 〜35 5
〜10 26
中(1) 〜5 58
中(2) 〜3 138
小(1) 〜2 621
小(2) 〜1 551
微小 〜0.3 2200

この水滴の大きさと個数の関係を、両対数プロットしてみると、ほぼ一直線上に乗ります。

つまり、水滴同士がくっついて大きな塊を作るプロセスは、
岩石のような巨大な塊が割れて破片となる逆のプロセスと似ている、ということです。

それでは、液体のようなものがくっつけば、いつでもべき乗則になるのでしょうか。
フラクタル”という本に、次のような記述がありました。

中華料理などの表面に浮かんでいる油。
・・・ 油の直径の分布を調べてみるとベキ分布ではなく、指数分布に近いことがわかる。
           -- フラクタル [朝倉書店] (1986)

中華鍋の油は、また違った分布に従っているらしい。
そこで、さっそく中華鍋を取り出して写真に撮ってみたのですが・・・

・・・う〜ん、なんとも汚い写真だ。。。
油滴の写真をきれいに撮るのは、かなり苦労します。
いろいろと試した結果、
「豚の角煮を食べた後を、部屋を真っ暗にして真上からフラッシュ撮影」
で、何とか数えられるような写真が撮れました。

被写体はけっこう美味かった。

食後の皿の様子、うまく油滴が見えている。

色分けして、ひたすら数えた。

大きさ (mm) 個数
特大 〜30 4
〜15 10
中(1) 〜8 50
中(2) 〜4 131
〜2 293
微小 〜0.5 1160

結果を両対数プロットしてみると・・・

あれ、やはり一直線上に乗っているように見えますね。
試しに、片対数でプロットしてみると・・・

こちらの方はカーブしています。(指数分布は片対数で直線になります。)

この結果からすると、水滴も油滴も、どちらもべき乗則に従っているように見えます。
しかも、両対数プロットの傾きを見ると、水滴 = -1.3263, 油滴 = -1.4171 と、かなり近い値です。
これを見る限り、どちらも同じような「くっつきプロセス」を経ているように思うのです。

本にあった「油滴が指数分布に従う」という結果も、それはそれで理に適っているように思えます。
油滴の“不安定さ”が大きさに比例するのだとすれば、油滴はボルツマン分布のごとく指数となるでしょう。
しかし、今回数えた油滴は指数とは違った様相を呈していました。
何かの条件が変われば、また分布も変わってくるのでしょうか。
試しにググってみたのですが、どうもこれぞといった答が見当たりません。
疑問は残るのですが、とりあえず今回の結論は
 「液滴が合わさった結果はべき分布となる」
ということで。

※ この結果は、他の話題も交えて数学月間懇話会(第10回)の場でお話させていただいたものです。
※ >> http://www.sugaku-bunka.org/数学月間の会/