隙間だらけの円

円を幾つかのパーツに分解して、再び組み立て直したら、同じ大きさの隙間だらけの円になった。
そんなことが有り得るでしょうか?
パーツは捨てたわけでも、付け加えたわけでも、重ねて置いたわけでもありません。

実際にハサミとノリを使って、こんなことを行うのは不可能でしょうが、
頭の中だけで行う数学的な操作であれば、十分に可能なのです。
以下に、その方法をお見せします。

まず、円周上の一点を、回転して別の点に移動する操作を考えてみます。
例えば、円を時計回りに90度回転すれば、12時の位置にある点は3時の位置に移動します。
引き続き90度回転を行えば、12時->3時->6時->9時->12時、と、
最初の点は4回の操作で元の位置に戻ってきます。
それでは、どんな回転操作であっても、繰り返し行えばいつかは最初の位置も戻ってくるのでしょうか。
そんなことはありません。
90度とか、60度とかいったキリの良い角度であれば最初の位置に戻ってきますが、
どこまでいっても割り切れない中途半端な角度であれば、何回繰り返しても最初の位置には戻ってきません。
たとえば √2度=1.4121356・・・度ずつ回転を繰り返したなら、2度と最初の点には戻って来ないのです。
元に戻ってくる回転角とは、(360度)/(回転角度) = 有理数 となる角度。
そうでない、(360度)/(回転角度) = 無理数 となる角度であれば元に戻ってきません。
ということは、元に戻ってこない角度は無数にあるわけで、むしろ戻ってこない場合の方が多いわけです。


12時の位置からスタートして、 √2度回転を繰り返したとき、円周上には「当たる点」と「当たらない点」ができます。
当たる点というのは、有理数x√2度の点です。
それ以外の、たとえばピッタリ3時(90度)といった点は、どれほど回転を続けても当たりません。
そこで円周上の点を、当たる点の集合=Aパーツと、当たらない点の集合=Bパーツの、2つのパーツに分解します。
この分解操作は、ハサミでは絶対にできないようなアクロバットなのですが、
とにかく2種類の点があるのですから、理屈の上で2つに分類することはできるはずです。
分解したら、Aパーツの方だけを √2度回転します。
そして、再びBパーツと合体させるのです。
何が起こるでしょうか。
スタート地点の12時の点だけに穴が空いているはずです。
なぜかというと、√2度回転は、スタート地点には戻って来ないから。
しかも、2つのパーツを合体させるときに、AパーツとBパーツには全く重なりがありません。
Aパーツを回転させただけで、1個の点が消えてしまったのです。不思議なことですが。

これと同じことを、今度は √3度回転について行います。
すると、やはり回転操作をスタートした位置にあった点が消えます。
(スタート地点は、先ほど消した12時の位置から、有理数x√3度違った地点であってはいけません。
有理数x√3度の位置からスタートすると、せっかく√2度回転で消した点を、
√3度回転で“復活”させてしまうからです。)
その次は、√5度回転。
その次は、3√2度回転。(2の三乗根)
その次は、e度回転、、、といった具合に、思い付く限りの無理数回転操作を、次々にあてはめて点を消してゆきます。
すると最後には、すごくたくさん穴の空いた、隙間だらけの円が残るはずです。
行ったのはパーツ分け+回転だけ、消しゴムは1回も使っていません。

最後に残った隙間だらけの円は、どういう状態になっているのでしょうか?
必ずしも有理数の点だけが消えた状態、というわけではありません。
例えば、12時からe度だけずれた位置からスタートして、√3度回転操作を行ったとしたら、
e度という無理数を消し去ることもできるのです。
しかも、もしパーツの組み替えがありだとしたら、穴の空いた位置を交換するという操作もありですよね。
例えば、√3度の位置に空けた穴を、3時の位置(90度)と交換して、3時の位置に穴をもってくる。
そして再び√3度回転を行って、√3度の位置に穴を空ける。
この「穴の交換操作」まで許せば、
・まず√2回転を徹底的に使って、有理数の点をことごとく消す。
・次に√3回転を徹底的に使って、有理数x√2の点をことごとく消す。
・次に√5回転を徹底的に使って、有理数x√3の点をことごとく消す。
  ・・・
あれれ、ほとんど全ての点を消すことができるんじゃないかな?
それとも、消すことができるのは、このように一連の手順に従って列挙される点だけなのだろうか。
たぶん、残るのは非加算無限の集合、
たとえ大きさの無い点が抜け落ちても、長さは依然として残っていると思うのですが・・・
よくわかりません、なんとも不可解です。
 * 参考:無限角形は円と同じか? >> d:id:rikunora:20090207

パーツの組み替えだけで、円に隙間をたくさん空けることができる。
以上は2次元平面上の円について考えたことなのですが、
似たようなことを、今度は3次元の球について行ったらどうなるか?
すると、円以上に不可解な、驚くべき事態が発生するのです。
それは次回のお楽しみということで。