噛み砕いた破片の分布
私たちが食べ物を噛み砕いたときの破片の大きさは、どのような分布になっているのでしょうか?
* 複雑系にひそむ規則性 ―対数正規分布を軸にして―
>> http://ci.nii.ac.jp/naid/110008723070
ちょっと変わった破壊現象の例として,ヒトの咀嚼を紹介しよう.
ヒトの咀嚼は第ゼロ近似では,口腔内での歯による食品の連続破壊現象だと考えられる。
上で紹介したコルモゴロフのモデルは,外部から複数回の衝撃が加わった連続破壊現象を記述するモデルとみなすこともできるため,
連続破壊現象により得られる破片のサイズ分布は対数正規分布であると予想できる.
実際,生ニンジンを一定回数咀嚼した後の食片について, そのサイズ分布を調べると,
食片の平均サイズや総粒子数などに被験者間の個人差が見られるが,
分布の形は個人によらず見事に対数正規分布で記述できることが示されている.
上記はもともと日本物理学会誌に載っていた記事です。
これによると、咀嚼した後の食片は「見事に対数正規分布で記述できる」とあるのですが、果たして本当でしょうか。
さっそく試してみました。
噛み砕いたもの、MONO消しゴム.
破片が洗いやすいものということで、消しゴムを選びました。(鉛筆は食べていない)
これをモグモグやって、ちょうど飲み込めそうだな、と思ったところで吐き出しました。
破片を大きさの順に並べます。
並べ作業完了。
拡大すると、こうなってます。
破片の大きさでクラス分けして数えてみました。
・最大 12mm (幅 9mm) | |
〜10mm | 9 個 |
〜8mm | 15 個 |
〜5mm | 25 個 |
〜3mm | 29 個 |
〜2mm | 65 個 |
〜1mm | 96 個 |
〜0.5mm | 115 個 |
〜0.1mm | 158 個 |
この結果を両対数プロットしてみると、上に凸型の緩いカーブを描いていました。
確かに、この結果は対数正規分布に近い形です。
岩石などを破壊したときの破片の大きさの分布は、一般にはベキ分布に従います。
* フラクタルビスケット、ポアソンスパゲッティ >> d:id:rikunora:20091213
岩石の破片は、感覚的には大きな少数の破片と、無数の粉末のような微細な破片に分かれます。
それと比べると、噛み砕いた結果は明らかに別ものです。
噛み砕いた結果は、
・極端に大きな破片が無い。
・粉末のような微細な破片も少ない。
・全体として“粒揃い”である。
こうした特徴は、カウントして分布を調べる以前の段階でも直観的に気付くことです。
人の咀嚼とは、効率よく一定サイズに落とし込む仕組みなのだと、つくづく実感できます。
「咀嚼 対数正規分布」でグーグル検索すると、幾つかの研究例がヒットします。
* 咀嚼による食品破壊の統計則(PDF)
>> http://www.phys.chuo-u.ac.jp/j/katori/?c=plugin;plugin=attach_download;p=research_record;file_name=kobayashi070718.pdf
まとめ
1. 複雑系において基本的な確率分布は対数正規分布である。
2. 生ニンジンや魚肉ソーセージの食片サイズ分布は対数正規分布に従う。
今回の結果から、このまとめの中に「消しゴムの破片」を加えてもよさそうです。
※ この結果は、他の話題も交えて数学月間懇話会(第10回)の場でお話させていただいたものです。
※ >> http://www.sugaku-bunka.org/数学月間の会/