超弦理論講座で分かったこと

先週の土曜日(6/22)に、朝日カルチャーセンターで行われた大栗先生超弦理論講座を拝聴してきました。
今回は、本当に行って良かった!
栗先生の講座は、これまでにも何度か聴きに行ったことがあるのですが、今回はいつにも増して内容も濃く、先生の語りにも熱がこもっている様に感じられました。
講座の様子は、毎回ご一緒しているとねさんのブログに詳しいので、ここでは私自身がなるほどと思ったポイントを列挙します。
>> とね日記 -- 超弦理論(朝日カルチャーセンター)
※ 以下は私自身の感想であって、講座の内容そのものではありません、念のため。

超ひも理論ではなく、超弦理論
どうでもいいことのようですが、特に人に話すとき、名前は案外重要なのです。
「超ひも」と言うと、何処となく軽くて胡散臭い印象を受けませんか?
日本では、元々は「超弦理論」が用いられていたのですが、
ある時期からライターが一般向けに受けの良い「超ひも」を持ち込んだのだそうです。
栗先生も「超弦」を用いているし、専門家はほとんど「超ひも」を使わないらしいので、
私たちもそれに倣って「超弦」と言おう。

■ なぜ「くりこみ」では解決しないの?
・重力の本質は時空間の歪みである。
・重力と量子力学を組み合わせようとすると、空間の距離(計量)がゆらいでしまう。
   -> それゆえ、重力はくりこみできない。


そもそも「くりこみ」とは何か。
これが一筋縄では理解し難いのですが、私は
「ミクロの階層とマクロの階層の関係から、世界全体を捉えようとするものの見方」
のことだと思っています。
* ここの説明が良い >> くりこみ理論の地平
くりこみの立場からすれば、前提として、世界はミクロからマクロに至る階層構造で成り立っているもの捉えます。
例えば、分子 -> 原子,原子核 -> 陽子,中性子 -> クォーク -> ... といった具合に。
そして、この階層のステップを上り下りするとき、そこにどのような法則があるのかを見出す、
というのがくりこみの精神です(なのだと私は思っています)。
確かに、ステップを1段下げる仕組みが分かってしまえば、ミクロの階段をどこまでも下っていくことができそうなのですが・・・
実は重力まで含めると、この「階段を下る」方法が使えなくなってしまうのです。
その理由は先に挙げた、空間の距離(計量)がゆらいでしまうから。
『重力まで含めると、無限大の解決を先送りにはできない』、
この階層で、くりこみ以外の方法で決着を付けなければなりません。

■ なぜ多次元なの?
量子力学では現象の起きる確率が計算される』のですが、
基本粒子を一次元の弦と考えて素朴に(3次元空間の弦理論で)計算すると、
確率が負の値になったり、1より大きくなったりして、つじつまが合いません。
ところが、『25次元を考えたら、弦理論で計算した確率が、0と1の間に収まった』のです。
確かに奇妙な結果ですが、とにかく次元の数字を必然性を持って決めることができた、という点に価値があります。
ひるがえって考えるに、普通の理論では「なぜ空間は3次元か」に答えることができません。
現在の宇宙が“たまたま”3次元だっただけで、別にこれが4次元であっても、
10次元であっても困らない(普通の理論である力学や電磁気学の法則は破綻しない)わけです。
ところが、弦理論の場合は25次元でないと困ってしまう。
現在の超弦理論では、25次元ではなく、9次元の空間次元と、
さらに「グラスマン数」という特別な座標を加えた「超空間」を扱っています。
この「超空間」でないと困ってしまう 〜 理論が破綻してしまうのです。
裏を返せば、この宇宙は“たまたま”3次元だったのではなく、
明確な理由があって、この次元に落ち着いたのだと言うことができるでしょう。
もちろん、超空間だけでは最終的な答になっていない(と私は思う)のですが、
ここを足掛かりにして、さらに、「なぜ我々は多くの次元のうち3次元しか認識できないのか」
という問の答を見つければ、最終的に我々は「なぜ空間は3次元か」を理解できることになる、
そういうシナリオなんです。

素粒子と弦の振動とは、どのように対応付けられているのか?
現在知られている素粒子 〜 この世の中を構成する最も基本的な部品を、1つの表にまとめたものが「標準模型」です。
* >> 現在の素粒子像「標準模型」
標準模型の表には16種類(重力(子)まで含めれば17種類)の粒子が載っていますが、
「最も基本的な部品」にしては、ちょっと複雑過ぎではないでしょうか。
・なぜ物質粒子は3世代あるのか?
・なぜクォークレプトンは対になっているのか?
・基本的な部品にしては、少々種類が多すぎではないか?
これらの問いに答えようとするのが超弦理論というアイデアなのです。
超弦理論では、この世はただ1種類の、一次元の広がりを持つ基本粒子から出来ている、と考えます。
そして、標準模型の17種類の粒子とは、一次元の基本粒子の(超空間内における)振動状態なのだと考えるのです。
 ・・・・・・
よくよく思い返してみると、人類は過去にも似たような状況に出会ったことがあります。
かつて、この世の物質は全て「元素」と呼ばれる基本粒子から出来ている、と信じられていた時代がありました。
そこで「元素」を調べて表を作ってみたところ、100種類を超える元素が周期的な規則で並んでいることが分かった。
きっと「元素」は本当の意味での基本粒子ではなく、もっと基本的な粒子 〜 電子や陽子から出来ているのに違いない。
その予想は結果的には正しくて、現在では元素よりももっと基本的な素粒子が見出されているわけです。
ならば、現在眺める標準模型の表も、150年前に眺めた元素の周期表と似たような位置付けにあるのではないでしょうか。
そう考えると、超弦理論の目指す輪郭が見えてくるでしょう。
「元素」のときには、原子核の周りを取り巻く電子の波動関数を調べることによって、ほとんどの化学反応が解明できました。
素粒子の場合も似たような感覚で、弦の波動関数みたいなものから、
(重力を含む)17種類の素粒子と、素粒子間の反応の説明が付くのではないでしょうか。
 ・・・・・・
ここまで想像したときに、弦のどういう振動が、どのような素粒子になるのだろうか、という疑問が湧いてきます。
弦の振動には、2倍波、3倍波、4倍波、、、と、いった具合に、いくらでも上の方の種類が考えられます。
一方、現在知られている素粒子の種類は、標準模型の表にある17種類だけです。
この、弦の振動と素粒子の対応付けはどうなっているのだろう?
というのが私の疑問で、講演の場で先生に質問してみました。
そこで分かったのは、超弦理論は、標準模型の17種類の素粒子を「含む」理論である、ということです。
弦の振動だけで言えば、100倍波も、200倍波も考えられるのでしょうが、
そのような振動状態はとてつもなく高エネルギーで、現実に見つかることは無いわけです。
元素の場合でも、理屈の上では200番元素だって、10000番元素だって考えられるわけですが、
現実にそんな元素は不安定で存在しない。
素粒子もそれと同じことなのだろう、、、というのが私の理解です。

ここまで前半のお話で、超弦理論について、私なりにかなりのイメージを掴むことができました。
栗先生、どうもありがとうございます。
今回の講演はかなりの長丁場で、後半ではさらにブラックホールや、『空間は幻想である』という話題にまで及びました。
正直、後半のお話はかなり(良い意味で)ぶっ飛んでいました!

さて、この大栗先生の講座では、毎回恒例でお土産のお菓子が配られます。
今回は特別限定アイテム「超弦理論チョコ」でした。

アインシュタインの似顔絵と、"SUPER STRING"が見えるでしょうか。これを食べると頭が良くなるかも。
また、この大栗先生の講座は、定例となった科学ブログ仲間のオフ会の場でもあります。
今回もとねさんや、271828さんなど、6人の仲間と飲みに行きました。
ここでも定番となった、271828さんの手作り「桑の実ジャム」を頂きました。

どうもありがとうございます。これ、我が家の朝食で大人気なんです。