世にも美しい微分の規則

小難しい理屈は抜きにして、まずは微分の基本ルールの復習から。

微分というものを「微かにしか分からない」人、あるいは忘れてしまった人、
とにかく上に書いたような「肩の荷を下ろす」計算操作のことを「微分」と言うのだ、
と覚えておきましょう。
・・・以上で予備知識は終了。

さて、「微分の基本ルール」を、こんな風にずらっと横に並べてみます。

これを、さらにもう1回微分すると、「肩の荷が下りてくる」ので、だんだん数が大きくなってゆきます。

何度も繰り返し微分するうちに、下ろしてきた肩の荷は、とてつもなく大きくなってくるわけです。
そこで、「肩の荷が下りてきても」数が大きくならないように、あらかじめ適当な数で割っておきましょう。
こんな感じです。

でも、これだと1回微分しただけで最初の状態に戻ってしまいます。
2回目以降は、またどんどん数が大きくなるでしょう。
そこで、何回微分しても数が大きくならないように、もっともっと割っておきます。

こんな風にしておけば、「何回微分しても変わらない」ルールの表ができるわけです。
さて、ここで「何回微分しても変わらない」ルール表を、ぜんぶ足し合わせてみましょう。

この、長い長い、無限に長い足し算の結果は「何回微分しても変わらない式」になっているはずです。
結論を言えば、これこそが「微分しても変わらない関数」、すなわち Exp(x) なのです。

(上の式にある!は階乗。たとえば 4!は 1x2x3x4 ということ。)
この長い足し算の式で、x = 1 と置いた数には、何か特別な意味がありそうです。

何を隠そう、これが自然対数の底 e という数です。
つまり e という数は、感覚的には「微分しても変わらない数」ということです。

しかし、ここに1つ疑問が残ります。
この無限に長い足し算の答は、無限大にならないのか、という疑問です。
でも、実は大丈夫。
無限に長い足し算、1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + ・・・1/2^n ・・・ = 1
ということさえわかっていれば、この e の式も、とある有限の値に落ち着くことがわかるのです。

このことから、e の値は2〜3の間にあるということがわかるでしょう。

さて、以上で「微分しても変わらない式」Exp(x) のことがわかったので、
この式を少しだけ変形してみましょう。
まず、x のところを -x に置き換えると、こんな風になります。

この式は、1回微分する毎に+、−、+、−と、交互に符号が入れ換わります。
ということで、Exp(-x) を微分すると、- Exp(-x) になることがわかります。

さらに、この長い足し算の式の中身を、1個置きに抜いた式を考えてみます。
つまり、1個目、3個目、5個目、・・・という奇数だけの式と、
2個目、4個目、6個目・・・という、偶数だけの式です。

奇数の式を微分すると、偶数の式になり、
偶数の式を微分すると、奇数の式になります。
この奇数の式と、偶数の式にもそれぞれ名前(関数名)が付いています。
奇数の式は、ハイパボリックサイン SinH(x) 、
偶数の式は、ハイパボリックコサイン CosH(x) です。
微積分の本には、こんな風に書いてあります。

SinH(x) = { Exp(x) - Exp(-x) } / 2 ・・・奇数番目が消える
CosH(x) = { Exp(x) + Exp(-x) } / 2 ・・・偶数番目が消える

よく考えてみると、わかるぞ。

さらに、上の2つの合わせ技をやってみましょう。
つまり、奇数番目で+、−が交互の式と、
偶数番目で+、−が交互の式です。

今度は、4回微分すると一巡して元に戻ってきます。
4回微分して元に戻る関数が何であるかというと、それぞれ

Sin(x)
Cos(x)
-Sin(x)
-Cos(x)

のことです。

つまり、微分というものが何なのか、意味を全く知らなくても、
最初に挙げた「微分の基本ルール」だけで次のことが分かってしまうのです。

 ・微分しても変わらない式、Exp(x) という関数が存在する。
 ・微分する度に符号が逆になる、Exp(-x) という関数が存在する。
 ・微分する度に互いに入れ替わる、SinH(x)、CosH(x) という関数が存在する。
 ・4回微分すると一巡する、Sin(x)、Cos(x)、-Sin(x)、-Cos(x) という関数が存在する。


さらにもう1つ、虚数単位 i という不思議な数を導入します。
微分と同様、ここで i の意味について深く思い悩む必要はありません。
ただ、i を2つ掛け合わせると−1になる、「 i x i = -1 」というルールだけを覚えてもらえば十分です。
そして、「微分しても動かない式」Exp(x) の、x を ix に置き換えてみます。
すると、

これが「オイラーの公式」と呼ばれているものです。
Exp(ix) という関数が一体何を表しているのか、ちょっとやそっとでは想像が付きません。
それでも、

 ・最初の「微分の基本ルール」
 ・「i を2つ掛け合わせると−1になる」というルール

この2つのルールが正しいのだと信じるならば、Exp(ix) というものは、
虚数の世界で三角関数 Sin(x), Cos(x) の組み合わせになっているはずなのです。
逆に言えば、三角関数 Sin(x), Cos(x) は、 Exp(ix) の組み合わせから作り出すことができます。

Sin(x) = { Exp(ix) - Exp(-ix) } / 2 i ・・・奇数番目が消える
Cos(x) = { Exp(ix) + Exp(-ix) } / 2 ・・・偶数番目が消える

ここでの1つ置きに消える仕組みが、先の SinH(x), CosH(x) にそっくりです。
(だから関数名も似ているのです。)

以上のことは、こんなブログの1記事には収まり切らないくらい美しい内容だと思います。
このことはたいていの微積分の本に、「テイラー展開」とか「マクローリン展開」という名前で載っています。
ぜひ納得が行くまで調べてくだされ。

参考:
 複素数の指数関数 >> [id:rikunora:20090607]
 口コミがブレークする数は >> [id:rikunora:20080624]