傷はぜったい消毒するな
傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)
- 作者: 夏井睦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/06/20
- メディア: 新書
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①傷を消毒しない。消毒薬を含む薬剤を治療に使わない。
②創面を乾燥させない。
この治療法は、現時点での傷の治療の原則である「消毒して乾燥させる(=ガーゼで覆う)」
と正反対であり、多くの病院で行われている傷の治療を完全否定するものだ。
消毒しない方が良いらしいのだが・・・ほんまかいな?
もしこれが本当なら、いままで一心に消毒してきた傷の数々は一体何だったのか。
そこで、とにかく試してみることにしました。
カッターで左腕に、カリカリと傷をこしらえました。
自分では、ものすごい勇気を振り絞ってグサッグサッ!とやったつもりなのですが、
実際は猫がひっかいたくらいの浅い傷です。(俺に自殺はできないなと思った)
このうち一方の傷は、通常通りに消毒薬でよく拭いて、その後よく乾燥させました。
もう一方の傷は、この本にある通り、水でササッと洗って、乾かさないように覆いました。
ここで塩素の入った水道水で洗ってしまっては形なしです。
我が家には、金魚を飼うために汲み置きしている水があったので、それで洗うことにしました。
※ここでは比較のため汲み置きの水を使いましたが、湿潤療法では水道水で洗ってもOKです。
※「通常飲めるものなら創部洗浄に使用して大丈夫だ」とのこと。
傷を覆うものは、最悪食品用のラップでも代用できるらしいのですが、
この方法ための「キズパワーパッド」という特別な絆創膏があります。
今回はそれを使ってみました。
裏にはこんな注意書きが書かれています。
本品は通常のばんそうこうとは異なります・・・
・キズは水道水でよく洗う
・ケガをしたらすぐ使う
・消毒剤やクリームと一緒に使わない
・キズの観察経過を怠らない
この絆創膏を、水洗いした方の傷に張ってみました。
消毒した方の傷は、乾いた清潔なガーゼで覆いました。
実は、すでにこの時点で差が出ています。
・消毒した方が痛い。
消毒薬がしみるので、当然と言えば当然なのですが。
・消毒した方が、見かけ上傷口がきれい。
きれいに拭いたのだから、これも当然です。
乾かさなかった方の傷は、たいして拭かずにグチャグチャのまま覆ったので、見てくれは悪いです。
・実は、消毒した方が出血量が多い。
きれいに拭き取る過程で、出血量が多くなります。
さっさとフタをしてしまった傷の方が、固まり方が早いようです。
最初の晩は、傷がひりひりしました。
すぐ隣に傷を作ったせいで、どちらの傷の方が痛いのか、ほどんど区別できませんでした。
これは失敗でした。どうせやるなら右手と左手に傷を作っておけばよかったです。
翌朝、傷の痛みは引いていました。
絆創膏をめくって比較すると、傷の様相は大きく異なっていました。
写真がピンぼけで分かりにくいのですが・・・
消毒した方は、傷口が固まっていて、地肌が広く赤く腫れた感じになっています。
傷をつけた当初はここまで赤くなっていなかったので、これは一晩で出来た腫れです。
一方、水洗いした方は、傷口に「ぐちゅぐちゅ」とした体液が溜まっています。
ピンク色の地肌の上に、薄黄色い水たまりができている感じです。
こちらの方も腫れていますが、地肌は消毒の傷より薄いピンク色です。
この時点では、傷口の様相は違うけれど、治り方の程度には大きな差異は感じられません。
消毒した方の傷は、もう1度きれいに消毒しました。
まだ少しだけふさがっていない傷が残っていて、消毒液がしみます。
湿っている方の傷は、絆創膏を新しいものに取り替えました
その日の晩に撮影したものです。
やはり、治り方に大きな違いがあります。
消毒した方は、広い面積が赤く固まっている。
湿っている方は、ピンク色の「ぐちゅぐちゅ」です。
(実物は大きく異なっているのですが、この写真だとわかりにくい)
この時点で、もうどちらも痛みは無くなっていました。
さらに1日経って、翌日の晩に撮影したものです。
消毒した方は、中央がかさぶたになり、周囲はピンク色になっています。
一方、湿っている方は、かさぶたというものができません。
黄色い水たまりが薄くなってきて、下の赤い部分がそのまま皮膚になってきている感じです。
ここまでの経過では、正直なところ「大差ない」というのが実感でした。
確かに、傷の様子は「乾」と「湿」で全く異なっているのですが、
回復のスピードそのものは、ほぼ同じに思えたからです。
ところが、次の晩になると、大きく差がついてきました。
消毒の傷は、かさぶたになっています。
湿った傷は、ピンク色の部分がそのまま皮膚に戻りつつあります。
消毒の方は、あとはかさぶたが取れてゆくのを待つことになるでしょう。
湿った傷の方は、あとはピンクの色が引けば完治です。
感触としては、かさぶたを作らなかった分だけ、湿った傷の方が早く直ったように思えます。
経過をまとめると、
・消毒薬がしみない分だけ、湿式の方が痛みが少ない。
・途中の治り方のスピードには、大差ないように思える。
ただし、傷の様相は「乾」と「湿」とで全く異なる。
・湿式にはかさぶたができない。その分だけ、最後の治り方が早い。
結局のところ、痛みが少なく、治りも早い湿式の方が、消毒方式よりも優れていると言えます。
驚いたことに、「傷は絶対消毒するな」は正しかったのです。
医療の常識とは一体何なのか、改めて考えさせられます。
ただし、いつでも消毒しないのが正しいというわけではありません。
本にもいくつかの場合が書いてあります。
とはいえ、次のような場合は、病院を受診して欲しい。
①創面に砂や泥が入り込み、汚染されている場合。
②傷が深い場合。
③治療の途中で発熱(三八度台の熱)があったり、創部に痛みがある場合。
この「傷は絶対消毒するな」には、いろいろ驚かされるところが多いのですが、
特に私が一番納得されられたのは次の下りでした。
こういう時は実験するのが手っ取り早い。
私は治療薬に疑問を持ったら、自分の体に傷をつけてその治療薬を付けてみて、どうなるかを観察することにしている。
これはすごい。気迫が違う。
そこで私も試してみようと思ったわけです。
この本には、専門家が一番先入観を捨てにくいとか、大病院は方式を改め難いといった、恨み辛み(?!)がたくさん書かれています。
そこで、全くの素人である私からの提言なのですが、
試しに学会の参加者全員で傷を作って比較してみてはいかがでしょうか。
1日にして結論が下せると思うのですが。
湿潤治療に興味を持った方は、こちらのサイトへ。
* 新しい創薬治 >> http://www.wound-treatment.jp/
* 人体実験シリーズ >> http://www.wound-treatment.jp/title_jikken.htm
※ 2/10 追記
もう1日経ったら、違いがさらに明らかになった。
湿式の傷は、もうほとんど治っている。
消毒の方は、かさぶたのままだ。
最終的には、これだけの違いが出た。
※ 2/16 追記
湿潤治療の夏井先生のサイトからリンクを頂きました。
私はホントたいしたこともしていないのに、なんだかお褒めいただいて、すごく恐縮です。
私も最初から「湿潤信者」だったわけではありません。
むしろ「まさか!?」と思ったからこそやってみたのですが、結果は見ての通り。
一度でも体験すると、この事実から目を反らすことは、なかなかできないのですよ。
・確かにキズパワーパッドは安くはないが、湿潤療法自体は最低限ラップでもできる安価な方法。
・タイトルにある「ぜったい」は、本屋さんの煽り入っている。
本にも書いてあるが、傷口が非常に汚れていた場合などは消毒することもある。
・ならば、なぜ人類は消毒というものを始めたのか?
それを知りたければ「外科の夜明け」という本を読め。きっと人生観が変わる。
* 人間に薬品はどれだけ必要か(1) >> [id:rikunora:20100714]