本の重さ

本には、秤にかけた重量とはまた別の「重さ」があります。
同じ文字数であっても、情報の重みに違いがある。
最も「軽い」のは、その名の通りライトノベルの類でしょう。
私はこれまで、あまりライトノベルというものを読んだことがなかったのですが、
試しに1つくらいと思って手に取ってみたところ・・・ムチャクチャおもしれーじゃねーか、これ。

一度読み始めたら止まらず、3時間くらいで一気に読み終えた。
勢いで2巻、3巻まで一気に読んだ。恐るべし、ライトノベル
やはりこれは、登場人物を描かないわけにはいくまい。

感想は「少年ジャンプが文庫になったもの」。
とにかく引き込まれる、けど、ある意味内容は薄い。
そこでふと思ったのですが、「本の重さ」というものは、読書スピードから割り出せるのではないでしょうか。
このライトノベルの場合、
文字数: 220ページx16行x42文字=147840文字。
 ただし、挿絵がある、せりふが多く、びっしり文字で埋まっているページが少ないことからすると、
 ざっと上の70%程度と見積もりました。147840文字x70%=103488文字。
読書時間:3時間
文章の重さ=文字数/時間: 34496 文字/時間。

ライトノベルの次に軽そうなのが、新書でしょう。
私の場合、2週間程度で1冊読み終えます。
のべ読書時間は5〜10時間程度だと思います。
おおざっぱな値ですが、最近読んだ新書の「重さ」を見積もってみました。

* 新書その1:(文章の書き方についてのHowToもの)
 文字数: 250ページx15行x39文字x80%=117000文字
 読書時間:6時間くらい
 文章の重さ:19500 文字/時間。


* 新書その2:(統計数字の読み方についての本)
 文字数: 270ページx15行x41文字x80%=132840文字
 読書時間:7時間くらい
 文章の重さ:18977 文字/時間。

ごく大ざっぱに言って、ライトノベル:新書 = 35 : 20 = 7 : 4
つまり、ライトノベルは新書の半分までとは言わなくても、4/7 くらい「軽い」。
この比率は、体感的に当たっているような気がします。
上の新書1:新書2の比率は、若干新書2の方が「重め」です。
私の感触もそんな感じでした。
こんな大ざっぱな数字にもかかわらず、なかなか実情をよく表しています。

新書よりもっと重めなのは、数式の入った理工学書です。
理工学書はさすがに一気読みすることはなくて、私の場合、数ヶ月かけて少しずつ読み進めています。
* 理工学書:(線形代数の解説本、少し薄め)
 文字数: 180ページx31行x30文字x80%=133920文字
 読書時間:15時間くらい
 文章の重さ: 8928 文字/時間。
つまり、数式入りの理工学書は新書の、ざっと2倍の「重み」を持っているようです。
数式が入ると本の売り上げは半分に落ちる、という話を聞いたことがあります。
考えてみると、数式なんてものは文字当たりの情報密度最大の表記方法でしょう。
だから、一気に密度が上がる。

では、最も「重たい」本はどの程度か。
私の手元にある中では、これなどは最も重たい部類の本です。

群の発見 (数学、この大きな流れ)

群の発見 (数学、この大きな流れ)

 文字数:233ページx30行x33文字x80%=184536文字
 読書時間:60時間くらいかな?
 文章の重さ: 3076 文字/時間。
この本、いったん途中まで読みかけて挫折。その後しばらく経ってから再チャレンジ。
しかも、まだ完全に読み終えていない。なので、読書時間はかなりいいかげんな値です。
それでも、約3000文字/時間というのは最も重たい本の一応の目安にはなりそうです。

こうして並べてみると、「本の重さ」と読書時間は、ほぼ反比例しそうに思えます。
つまり、密度が高い文章ほど吸収するのに時間がかかる。
ところが、この法則を覆す例外もあるようです。
私にとっては、この本がそうでした。

経済物理学の発見 (光文社新書)

経済物理学の発見 (光文社新書)

 文字数: 270ページx15行x41文字x80%=132840文字
 読書時間:4時間くらい
 文章の重さ: 33210 文字/時間。
この本、私の中では希に見るヒット。
あまりのおもしろさに、短時間で一気読みしました。
数字だけを見ると、ほぼライトノベル並み。
では、経済物理学ライトノベル並みに「軽い」のかと言えば、そんなはずは無いでしょう。
つまり、読書スピードは「本の重さ」だけで決まるのではなく、
「引き込まれ度合い」も大きな影響を与えている、ということです。
この本は、たまたま私が関心を抱いていた内容との重なりが大きかった。
なので、特別に強く引き込まれたのです。

さてこうなると、「本の重さ」を割り出すには読書スピードだけでは不十分で、
「引き込まれ度合い」も何らかの方法で測ってやる必要があります。
例えば次のような方法で測れそうです。
1.他の似たような本と比較する。
 経済物理学の例で言うと、他の新書のスピードが約2万字/時間であるのに対し、
 この本だけが例外的に突出していた。
 なのでこの本だけが、特別に引き込む力を持っていたことが分かる。
2.他の多数の人と比較する。
 強く引き込まれた人、というのは、おそらく読者全体の中の一部だと思う。
 多数の読者の読書時間の分布を見れば、その中で自分が特に引き込まれた方なのか、
 そうでないかの見分けが付くのではないか。

しかし、これだけだと
・「重く」て、かつ「引き込まれる」名作と、
・「軽く」て、たいして「引き込まれない」駄作
の区別が付きません。
名作と駄作を分けるのは、結局のところ「おもしろかったかどうか」で判断するしか無いように思います。
名作ほど強く引き込まれる。
このことを前提とすれば、本の「重さ」を評価する方法は、次のようになるでしょう。

1:まず「おもしろさ」を基準に、名作、駄作を評価する。
 たとえば ★1つ〜★5つといった5段階評価で、本の点数を付ける。
2:★の数を「引き込まれ度合い」に換算して補正をかける。
 例えば、
 ・経済物理   = ★5つ(希に見るヒット作)
 ・一般的な新書 = ★3つ(平均値)
 だと考えて、★1つ増えるごとに読書スピードは30%アップすると見なす。
 (この 30% という基準は、各人が自分の読書傾向に合わせてはじき出すべき値です)
3:実際の読書時間に、★の数による補正をかける。
 例えば、経済物理は本来よりもずっと速いスピードで読んだのであって、
 本来であれば 4時間 * 1.3 * 1.3 = 6.76時間かかったのだということにする。
4:補正をした読書時間によって、文章の重さ=文字/時間 を求める。
 経済物理の例だと、132840文字/6.76時間 = 19650 文字/時間。

「読書スピード」と「おもしろさ=引き込まれ度合い」。
すごく大ざっぱではありますが、「本の重さ」はこの2つの値から導き出せるように思います。
私自身で試しに何冊か試算してみたところ、この重み付けはかなり感覚にマッチしていました。
読書家の方、試しに試算されてみてはいかがでしょうか。