チビ犬ガオガオの確率

“チビ犬ガオガオ”という名前のおもちゃがあります。
9つの骨の形をしたボタンが付いていて、運悪く(良く?!)当たりのボタンを押すと、
バネ仕掛けの犬が襲ってくるというおもちゃです。

たいてい何人かで順番にボタンを押しっこして遊ぶのですが、
実際に子供たちが遊んでみたところによると、どうも
「ボタンが残りあと1個だけというふうには、ほとんどならない」らしいのです。
私は何気に、こう答えました。
「そんなの気のせいだよ。どのボタンも当たる確率1/9だから、
1回目で当たる確率も、9回目で当たる確率も、実は同じで1/9だ。」
ところが、「いや、絶対そんなことはない、試しにやってみろ」と強く反発されて、試しにやってみたところ・・・
確かに、なかなか9回目まで達しません。
その場で100回以上試してみたのですが、ボタンが残りあと1個という状況には、1度もなりませんでした。
そんなバカな?! これはおかしい、何か秘密があるはずだ・・・
ということで、確率1/9の謎を追って、このおもちゃを調べてみることにしました。

まず、各ボタンの確率が等しく1/9だったなら、N回目に当たる確率は全て等しく1/9になるのか。
例えば8回目までに当たらない確率は、
 8/9 * 7/8 * 6/7 * 5/6 * 4/5 * 3/4 * 2/3 * 1/2 = 1/9 です。
この式の様子から、毎回分母と分子が打ち消し合うので、
何回目であっても当たる確率は等しく 1/9 になることがわかります。
さらにパソコンで簡単なシミュレーションまでやってみたのですが、やっぱり結果は 1/9になるようです。

やはり 1/9 という考え方は間違っていない。
それでは、実際のおもちゃではどんな風になっているのか?
とにかく実際に数えてみました。

さあ、この結果を見てどう思いますか?
250回試してみたのですが、9回目まで達したことは1度もありませんでした。
これはひょっとして、ボタンが残りあと1個という状況には、絶対にならないのではないか。
そう考えて、無理矢理ボタンが残りあと1個を作ろうとすると、不思議なことにこれができるのです。
ボタンをちょっとだけ押して固さを調べると、どれが当たりなのか、およその見当が付きます。
ボタンの固さを調べつつ、上手く当たりを避けてソーッと押してみると・・・
確かに、ボタンが1個だけ残るという状況は作り出せるのです。

しかし、250回押してもボタン1個だけの状況は1度も出現しなかったのですから、とてもレアなケースだと言えます。
実際の結果をよく見ると、どちらかと言えば少ない回数のうちに当たることが多いように見えます。
少なくとも1回目に当たった回数は、8回目に当たった回数よりずっと多い。
これが決め手になりました。
このおもちゃでは9個のボタンのうち、2個に当たりが仕組まれているのではないか。。。
そう考えて、9個のうち2個に当たりがあるものとして行ったシミュレーション結果は、こんな風でした。

9個のうち2個に当たりがあるとすれば、8回目まで当たりが出ない確率は
 7/9 * 6/8 * 5/7 * 4/6 * 3/5 * 2/4 * 1/3 = 1/36 = 約0.03
今度の場合は、回数が多いほど、確率が低くなってゆくことがわかります。

それでは、果たしてこのおもちゃの中身はどうなっているのか、分解してみることにしました。
これがボタンの裏側です。

中央の円盤を、9つのストッパーが止めています。
意外と複雑な仕組みです。
そしてこれが台座の部分。

中央にある円盤形状の部品が、確率の秘密です。
この部分が自由にグルグル回転して当たりを決めているのですが、
そこにはプラスチックの爪が2つあって、2カ所が当たりとなっていました。
それでは、なぜ上手いことすれば、ボタンを1個だけ残すことができたのか。
ここが現実のおもちゃがデジタルにはいかないところでした。
実際のプラスチックは力をかければ変形してしなるので、爪がぎりぎりにひっかかっている状態で、
うまい角度でボタンを押し込むと、ボタンの下にあるプラスチックが少し曲がって爪を回避できるのです。
なので、ボタンが1個だけ残った状態というのは、例外中の例外だったのでした。

ボタンが1個だけ残る理由は、もっと別のところにありました。
詳しくは下のコメントをご覧ください。

結果のヒストグラムを見ると、もっと内部構造の予測がつきます。
よく見ると、2回目、4回目、の当たり回数が少なくて、それでいて7回目と8回目が逆転しています。
これは、プラスチックの爪がちょうどボタン2個分くらい3個の間隔を開けていたことに起因しているようです。
このカウントをとったとき、私はでたらめにボタンを押したのではなく、
奥の方から手前に向けて、右、左、右、左、といった順番でボタンを押していました。
なので、例えば1回目で右奥のボタンが外れたとき、2回目に左奥のボタンも外れる確率は、有意に小さくなるようです。

今回はおもちゃを分解して内部を直接見たのですが、よく考えればフタを開けなくても、
外側からボタンを押した確率だけで内部構造の予測が付けられる、ということがわかりました。