3つの運動方程式

古典力学運動方程式には、3つの表現形式があります。
ニュートンラグランジュ、ハミルトン。
ニュートンのものが一番の基本で、最もシンプルです。
後の2つは解析力学と呼ばれる分野に登場します。

もとになる物理法則は1つなのですから、この3つは表現形式が違うだけで、本質的な中身は同じです。
ならば、運動方程式は1つで充分に思えるのですが、なぜわざわざ3つも用意したのでしょうか。
最大の理由は、ぶっちゃけ「量子力学のため」だと思います。
ラグランジュ形式、ハミルトン形式は、古典力学から離れて、量子力学にも適用されています。
なので、これがわからないと、量子力学で挫折することになる。。。
もちろん解析力学が作られた当初は、量子力学が目的だったわけではありません。
まずラグランジュ形式ですが、これは「最も効率の良い経路を見出す」といった目的に最適化されています。
* ラグランジアンに意味は無い >> d:id:rikunora:20090327
とにかくニュートン形式では「もうやってらんねー」ようなめんどくさい問題が、
ラグランジュ形式だと簡単に解けることがあるんです。
例は“解析力学”と銘打ってある本には必ず載っているので、そっちを見てくれい(無責任)。
次に、ハミルトン形式について。
ハミルトン形式は、もともと1本だった2階の微分方程式を、1階の微分方程式2本に分割したものです。
もともと1冊だった本を、上下2巻に分けて水増ししたようなものです。
それだけ聞くとあこぎな商売みたいですが、この水増しのおかげでハミルトン形式の1本1本の式は、
一塊の式よりも大きく融通が効くようになっています。
2つの式のつなぎ目として導入した「運動量」は、状況に合わせて自由に設定することができます。
具体的には、目的に合わせて座標系を自由に選ぶことができる、ということです。
「自由に設定できる運動量」のことを、「一般化運動量」と呼んでいます。

以下で、この3つの形式の橋渡しをしようと思うのですが、
ニュートン形式 => ラグランジュ形式 については以前の記事に譲ります >> d:id:rikunora:20090327
今回の目玉は、ハミルトン形式です。


その前に、たくさん登場する記号の解説を少しばかり。
解析力学では、どういう訳か同じ内容を別の記号で表すことがあるんです。
また、人により本により記号が微妙に違っていて、これがさらなる混乱を生んでいるように思うのです。
知っている人には当たり前なのかもしれませんが、私は慣れるまでかなり混乱したので、せめてここに書いておきます。
まず、座標を表す記号。
物体の位置座標と言えば、3次元であれば普通は(x, y, z) と書きます。
ところが解析力学では座標の意味を広げていて、3次元以上をも扱うことができるのです。
なので(x, y, z) ではなくて、(x1, x2, x3, x4 ...)と書きます。
同じことを繰り返し書くのは面倒なので、まとめて xi (i=1,2,3...) と書くこともあります。
さらに、いちいち (i=1,2,3...) と書くのがめんどくさいので、単に xi と書いてあったり、
場合によっては x だけ書いて複数の座標を表していることもあります。
また、解析力学では座標を x ではなくて、q で表すこともあります。
ハミルトン形式では q で書くのが慣例です。
たぶん運動量の p に合わせてバランスをとったのだと思います。
あと x が普通のデカルト座標っぽいのに対して、q は自由に選んだ一般化座標という感じなのでしょう。
ラグランジュ形式のところで、上の図では運動エネルギーのことをTで表しています。
これをKと書いているものもあります。
Kは Kinetic なのでしょうが、Tはなんなんだろう、よく知りません。
位置エネルギーは、上の図ではUで表しています。
これをVで表している本もあります。
微分の記号は、f'(x) のように ' を付ける書き方がありますが、
解析力学では d/dt のように、d で分数のように書くのが主流です。
' はニュートン流、d/dt はライプニッツ流です。
さらに、解析力学では文字の上に・(ドット) を付けて微分を表す、ということをしています。
あと、ライプニッツ流の書き方をよく見ると、d/dt と書いてあるところと、∂/∂t と書いてあるところがあります。
d で書いてあるところは単なる微分、∂(ラウンドディー)で書いてあるところは偏微分です。
偏微分とは、多変数関数について、ある特定の向きにだけ偏って微分するということですよ。
以上は余計な解説だったのですが、、、こんだけ出てくれば、間違わない方が不思議だと思うぞ。
記号、たくさん有り過ぎ。

* ニュートン形式 => ハミルトン形式
話を保存力場中の質点の運動に限定します。
保存力場と言ったのは、質点が受ける力を周囲の場(地形)によるものだけに限定しよう、ということです。
周囲の場から受ける力というのは、要はデコボコの地形の上に置かれた質点が
下り坂の向きに力を受けるということですから、位置エネルギー微分になります。
このときニュートン運動方程式は、
  - ∂U/∂x = m・d^2 x / dt^2    ・・・(1)
式の先頭に付いているマイナスは「下り坂の向きに働く」という意味です。
位置xの微分が速度になること、運動量とは(質量)・(速度)であることから、運動量pは
  p = m・d x / d t     ・・・(2)
この運動量pを用いて、最初の(1)式を書き直すと、
  - ∂U/∂x = d p / d t    ・・・(3)
となります。
さて、ここで質点の持つエネルギーについて考えてみることにします。
全エネルギーは(運動エネルギー)+(位置エネルギー)ですから、それをHと書くことにすると、
  H = (1/2m) p^2 + U    ・・・(4)
この(3)式のHを運動量pで微分すると、(Uはpに依存しないから消える)
  ∂H/∂p = (1/m) p
運動量pとは、(2)式のことだったので、
  ∂H/∂p = d x / d t    ・・・(5a)
また、(4)式のHを位置xで微分すると、(pはxに直接依存しないから消える)
  ∂H/∂x = ∂U/∂x
(2)式によって、
  ∂H/∂x = - d p / d t    ・・・(5b)
この (5a), (5b)の2本の式が、ハミルトンの運動方程式です。
全エネルギーHを引き合いに出して、もともと1本だったニュートン運動方程式を、
位置xと運動量pの2つの変数による2つの式に書き直したわけです。

* ラグランジュ形式 => ハミルトン形式
ラグランジュ形式には、ラグランジアンLという量がありました。
ラグランジアンLは位置と速度に依存する関数、つまりL(q, q')ということです。
ここで、Lをほんの少しだけ変化させた変分δLというものを作ってみます。
  δL = (∂L /∂q) δq + (∂L /∂q') δq'   ・・・(6)
唐突に複雑な式が出てきたように見えますが、これ、要は2変数関数の全微分というやつです。
なぜこのような微小変化を考えたのか。
それは、Lを位置q と速度q' の2つに分解したかったからです。
Lには運動方程式の情報が1つにまとまって入っているのですが、
それを揺さぶってみると、位置、速度、2つのカケラが出てきます。
この2つのカケラを、それぞれ2本の式にしてしまおうというのが、δLを作った狙いなのです。
(別にδL=0として、最適なLを探そうということではない。)
(6)式の (∂L /∂q') という部分を、運動量であると見なします。
つまり、一般化運動量pを
  p = ∂L /∂q'    ・・・(7)
であると定義します。
この定義は天下り的ですが、試しに L = 1/2 m v^2 - U と考えて v = q' で微分してみると、
確かに p = m v となっていますね。
さて、ラグランジュの運動方程式とは
  d/dt(∂L/∂q') - ∂L/∂q = 0    ・・・(8)
でした。
この (7)式と(8)式を使って、先の(6)式を書き直すと、
  δL = (dp/dt) δq + pδq'    ・・・(9)
両辺から δ(pq') という値を引いてみます。
  δ(pq') = pδq' + q'δp
であることに注意。
すると、(9)式はこんな風になります。
  δ(L - pq') = (dp/dt) δq - q'δp
両辺の符号をひっくり返します。
  δ(pq' - L) = q'δp - (dp/dt) δq
この式の左辺 (pq' - L) ってところを、Hという記号にまとめましょう。
  δH = q'δp - (dp/dt) δq    ・・・(10)
ところで、Hはpとqの関数なのですから、全微分するとこうなります。
  δH = (∂H/∂p)δp + (∂H/∂q)δq    ・・・(11)
(10)式と(11)式は同じものですから、じっくり比較すると、次の2本の式が引き出せます。
  ∂H/∂p = q'    ・・・(12a)
  ∂H/∂q = - dp/dt = - p'    ・・・(12b)
この (12a), (12b) の2式が、ハミルトンの運動方程式です。
いったい何のこっちゃ? と思われるかもしれませんが、いまやったことは結局
・運動の法則=ラグランジュの運動方程式の情報を盛り込んで、
・一般化運動量p、ハミルトニアンH、といった意味がありそうなパーツをまとめて、
・2本の式に変形した
ということなんです。

以上が、3つの運動方程式を結びつける最短ルートなのだと私は思っています。
でも、やってることはあくまでも「形式」の書き換えに過ぎないのですから、
式をいじるのがとっても好き、という人以外はあんまりおもしろくないですね。。。
ここでは具体的、物理的な意味を追い求めて、わからん、わからんと悩むよりも、
しょせんは数学的形式なのだと割り切って、
 ・式に慣れる
 ・式の形を観賞して楽しむ
のが良いみたいです。

もう少し深く知りたいのであれば、やはりこのサイトに飛ぶしかあるまい。
* EMANの物理学 -- 解析力学
>> http://homepage2.nifty.com/eman/analytic/contents.html