囲碁の名人

少し以前のことになりますが、友人の紹介で、プロの棋士に指導碁を打ってもらいました。
私はようやくルールを覚えた程度の素人なのですが、めったに無いせっかくの機会だったので、
わがまま言って打たせてもらったのです。
それでもプロの方は嫌な顔一つせず、ていねいに指導してもらいました。
でも、もっと感心したことがあります。
同じ会場にいた小さな子供相手に、プロの方が一局打ったのです。
その子供は、囲碁のことをほとんど知らない初心者。
どんな風に打ったかというと、相手の子に「石を取らせるように」打っていました。
「こうやって打ってごらん。石を20個とったら、君の勝ち。」
プロの方は、少しずつ石をとれるような「問題」を用意する。
すると、子供の方は一生懸命になって、石が取れるところを探すわけです。
取れるところを探しあてると、やっぱり嬉しい。
そうして、ちょうどギリギリ20個取れたところで終局。
終わってみると、子供の方は勝った感じでニコニコ顔でした。

プロがとてつもなく強いのは確かに驚きですが、まあ、ある意味当然であるとも言えます。
でも、ただ強いばかりではなく、ド素人や子供に優しいのは、人徳のなせる業です。
この一事で、私はプロ棋士の方をすっかり尊敬しました。

こういうのは名誉なことなので、名前を明かしても構わないでしょう。
打っていただいたのは、遠藤 悦史 七段。
きっといずれはビッグタイトルをとって、日本一になれる方です。
さあ、みんなで応援しよう!

さて、この話を知人に話したところ、「囲碁なんてもうこりごりですよー」という答が返ってきました。
なんでもその知人は、以前、強い人に碁を打ってもらったのだそうです。
そのお相手というのがあまり親切ではなかったらしく、どんどん石を取られて、
すっかりしょげてしまったのだそうです。
ちなみに囲碁というものは実力100%のゲームで、初心者が上級者に運で勝てることはまずありません。
よほど途中で「もう止めましょうよ〜」と言おうとしたらしいのですが、相手が年上で、言うに言えなかった。
あげくの果てに説教ばかり聞かされて、もう、うんざり。
それ以来、囲碁というものが嫌になって、興味を失ったのだそうです。

この話を聞いて、なるほど、それが本当の違いだったのかと思いました。
実際のところ、プロに1度や2度打ってもらったところで、囲碁が突然強くなることは無いでしょう。
それでも、ニコニコ顔の子供は、きっと囲碁が好きになります。
反対に、不幸にして意地悪な相手にあたった知人は、囲碁が嫌いになりました。
明暗を分けるポイントは、ここにあったのです。