ふつーの人向け小林・益川理論

小林・益川理論とその検証」シンポジウムに行ってきました。
ノーベル賞理論とその背景を、一般の人向けに解説するという企画です。
>> http://belle.kek.jp/km-sympo/index.html
偉い先生の姿を拝んでこようという野次馬根性で見に行ったのですが、
わかりすくおもしろい話で、聞きに行って良かったと思える企画でした。

今日のお話をもとに、私の理解した小林・益川理論をまとめてみました。
私はふつーの人なので、それなりのことしか書いてないですよ。
実のところ、今日聞いた話だけで全容を理解するのはとても無理で、
行く前にブルーバックスで予習しておいたのが役立ちました。

消えた反物質―素粒子物理が解く宇宙進化の謎 (ブルーバックス)

消えた反物質―素粒子物理が解く宇宙進化の謎 (ブルーバックス)

あと、この本が理解に役立ちました。小冊子ですが、数式入りのピンポイント解説なので、予備知識ゼロだとちょっとつらいかも。

まず、以下のページにある[図1]を見てください。
* 世界を変えた一つの論文 〜 小林・益川理論
>> http://www.kek.jp/newskek/2003/mayjun/km.html
これは「標準理論」と呼ばれている枠組みで、万物の構成要素を一覧表にまとめたものです。
標準理論によると、物質粒子はクォークレプトン、それぞれ第1世代から第3世代までに分類されていて、
合計12種類の粒子から成り立っています。
図には描かれていませんが、それぞれの粒子には、その反対の粒子があります。
たとえば電子の反粒子陽電子で、電子はマイナス電荷ですが、陽電子はプラスの電荷を持っています。
反対の粒子まで数えれば、12種類の反粒子を合わせて、計24種類の物質粒子があることになります。
図の右側に書いてある「ゲージ粒子」というのは、物質粒子の間に力を伝える粒子の一群です。
例えば光子は電磁力を伝えるものです。

小林・益川理論が登場する以前の70年代には、まだこの一覧表は未完成で、手探りの状態でした。
その当時知られていたクォークはアップ、ダウン、ストレンジの3種類だけだったのです。
クォークは単独で捉えられない仮想的な粒子なので、
当時はまだクォークの存在すら確かなものではありませんでした。
クォークは必ず3個か2個で1セットになっています。
 1個だけのクォークはこれまで見つかったことがありません。)

これより少し以前に(1964年)、「CP対称性の破れ」という現象が実験で見つかっていました。
CとはCharge(電荷)のC、PとはParityのP。
ある現象を反粒子に入れ替えて、鏡に映したように反転したら、元の現象と同じことになるか。
この世にあるほとんどの現象は、反粒子x鏡像反転しても、元と同じように成り立ちます。
もしある日、宇宙全体の物質を全て反物質に入れ替えて、鏡に映したように反転させても、
中にいる我々は変化に気付かないでしょう。
ところが「K中間子の崩壊」という現象では、入れ替えを行うと、結果が元とは違ってきます。
どんな現象なのかは、簡単に説明できそうにありません・・・
私もよくわかってないので、知りたい人はがんばって上の本を解読してみてください。
とにかく、入れ替えると結果が変わってくるような、珍しい現象が実際に起こっていたのです。
鏡の中と外で物理法則が変わってしまう・・・こんなことは、日常の世界では見たことがありません。
極限の世界での不思議な現象、と言う他ないでしょう。

この「CP対称性の破れ」という現象を、クォークにあてはめてみたらどうなるか?
それを問題にしたのが、小林・益川理論なのです。
当時、知られていた3種類のクォークの他に、[図1]のストレンジの隣の空席に、
未知の新粒子「チャーム」があるのではないかと予想されていました。
仮にクォークが4種類あったとしても、それだけでは「CP対称性の破れ」という現象はどうしても説明が付かない。
考えられる可能性として、もっと多くの種類のクォーク
[図1]で第3世代と書かれているところまで含めた計6種類のクォークがあれば、「CP対称性の破れ」の説明が付く。
これが小林・益川理論の主張です。

どうして4種類じゃダメで、6種類ならOKなのか。
その根拠は、素粒子同士の「弱い力」による相互作用にあります。
素粒子はお互いに力を及ぼし合って、その姿を変化させます。
中でも「弱い力」(Wボソンによる相互作用)によって、[図1]の上の段にあるクォークは下の段に変化します。
その反対に、下の段にあるクォークは上の段に変化します。
以下、名前が長いので、
 アップ=u、チャーム=c、トップ=t
 ダウン=d、ストレンジ=s、ボトム=b
と略記します。
もしクォークが4種類だったら、上の段から下の段へのクォークの変化は
 u → d、 u → s
 c → d、 c → s
の全部で4通りになります。
クォークが6種類だったら、上の段から下の段へのクォークの変化は
 u → d、 u → s、u → b
 c → d、 c → s、c → b
 t → d、 t → s、t → b
の全部で9通りです。
これらの変化は、全て「確率的に」起こります。
確率的って何だ?
たくさん数え上げれば傾向が見えてくるのだけれど、
具体的に1個1個の素粒子が、次に何になるのか正確に言い当てることができない・・・
ま、そんなもんだと思ってください。
上記の4通りの変化の確率、あるいは9通りの変化の確率を、そのまま
2x2の行列、あるいは3x3の行列に書いたものを「小林・益川行列」と言います。
で、この行列に書かれた確率の数字が、全部実数であったなら、CP対称性の破れは起こらない。
実数だけでなく、虚数が含まれていたならば、CP対称性の破れが起こり得るのです??!
・・・よくわかんなくても、そんなもんだと思ってください。
私もよくわかってません。
たとえばクォークの生成、消滅といった変化を複素数(のハミルトニアン)で記述すると、
反粒子への入れ替えは複素共役をとる(虚数部分のプラス、マイナスを反転させる)ことに相当します。
もともとの数が実数であれば、複素共役は何の関係もないので、
「もともとの実数=反粒子へ入れ替えたときの実数」になっています。
しかし虚数を含んだ複素数であれば、
「もともとの複素数反粒子へ入れ替えたときの複素数」なので、
粒子と反粒子では結果が変わってしまうのです。。。
う〜ん、自分でも何言ってるんだかわかんないですね。
このあたりは、正攻法で数式を理解する以外に方法が無いみたいです。

私たちの日常的な世界は、普通の感覚だと実数で成り立っています。
でも、量子力学の世界は、実数ではなくて複素数で成り立っています。
私たちが直接見ることができるのは実数の結果なのだけれど、
現象そのものは複素数の世界で起こっている・・・そう考えると、とても都合がいいんです。
ここで話題に挙がっているクォーク、u, d, c, s といった粒子も「複素数の波」であると考えられています。
複素数の波」って何だ?
波というのは、振幅(高さ)と位相(タイミング)を持つものです。
振幅の2乗が、粒子の存在確率になります。
複素数の位相は、直接目には見えないのですが、現象の裏に「隠しパラメーター」として存在しています。

「小林・益川行列」に話を戻しましょう。
* クォークが4種類の2x2行列の場合:
自由に動かせるパラメーターは4つありますが、位相という「隠しパラメーター」があるおかげで、
私たちが実質的に動かせる(観測できる)パラメーターは1つだけになってしまいます。
位相は全部で4つあるのですが、そもそも位相とはタイミングの前後関係のことなのですから、
意味があるのはお互いの相対的な関係だけです。
なので、差し引く「隠しパラメーター」は4個ではなくて、3個なんです。
2x2の小林・益川行列は、実質的には1個だけのパラメーターで記述できます。
先の[図1]の下に書いてある、[図2]カビボ角というのが、その実質的な1個のパラメーターを表しています。
>> http://www.kek.jp/newskek/2003/mayjun/km.html
この[図2]はいったい何を表しているのだろうか?
素粒子がぶつかったときの角度かな?
・・・なんて、私も最初は思ったのですが、これって実際に目に見える世界の角度のことではないんです。
クォークが変化するときの確率(の基底)をベクトルで表したとき、そのベクトルの変化を角度と呼んでいるみたいです。
実質的に1個だけのパラメーターが実数なので、2x2行列の場合、CP対称性の破れが生じることはありません。

* クォークが3種類の3x3行列の場合:
自由に動かせるパラメーターは9つありますが、位相という「隠しパラメーター」を差し引くと、
実質的に残るのは3個の回転角パラメーターと、1個の位相パラメーターになります。
(回転角パラメーターとは、確率ベクトルの変化を表す量のことです)
複素数である位相パラメーターは、消えることなしに、最後まで残る。
3x3の小林・益川行列は、虚数を含むことになるので、その影響でCP対称性の破れが生じ得るのです。

オリジナル論文は、ここで入手することができます。
* CP-Violation in the Renormalizable Theory of Weak Interaction
>> http://hdl.handle.net/2433/66179
想像以上に短い、たった6ページ。
この6ページに、深淵な内容が凝縮されているわけです。
この中で、「クォーク6種類」の予言が書かれているのは、最後の1ページのみ。
その直前の5ページ後半には、もう1つの可能性として、強い相互作用スカラー場?!
みたいなことが書かれています。
別の可能性というのも考えられたのでしょうか? よくわかりません。
それより前のほとんどの内容は、2x2行列を子細に調べたら、CP対称性の破れなんて起こりっこないよ、
ということが書かれています。
見る人が見れば、2x2行列ではまだ何かが足りない => その先に未知の新粒子がある!
ということがすぐにわかったのでしょうね。

化学の世界では、メンデレーフが周期表を作ったところ、その空席の元素が次々に埋まってゆきました。
クォークの世界では、小林・益川理論の後に、予言された空席が次々と埋まっていったわけです。
なので、小林・益川理論とは、クォークの世界でのメンデレーフ周期表みたいなものなのだと思います。
そう思えば、ノーベル賞に値するのは当然かと。

このブログで、もっと詳しく論文の内容が書かれていました。
* 特別企画 小林・益川論文を読む! −その1(以下続くのか?)
>> http://d.hatena.ne.jp/kazu_FGF/20081024
この特別企画は、素粒子論の背景まで含めて、いまのところ「その3」まで続いています。
すごく骨のあるブログだ。ぜひ、続きを希望!