ルービックキューブに宿る悪魔

ルービックキューブのパターン数は 43,252,003,274,489,856,000通り
(4325京 2003兆 2744億 8985万 6000)だそうだ。
仮に1秒に1パターンずつ実現すると、全てを一巡するのに約1.37 * 10^12 年 = 1兆3千7百億年かかる。

4×4×4 の「ルービックリベンジ」は、
7,401,196,841,564,901,869,874,093,974,498,574,336,000,000,000 通り。
(74載 0119正 6841澗 5649溝 0186穣 9874[禾予] 0939垓 7449京 8574兆 3360億 0000万 0000)
1秒に1パターンずつ実現すると、約2.35 * 10^38 年 = 235澗年。

5×5×5の「プロフェッサーキューブ」は、
282,870,942,277,741,856,536,180,333,107,150,328,293,127,731,985,672,134,721,536,000,000,000,000,000 通り。
(282[?!] 8709無量大数 4227不可思議 7741那由他 8565阿僧祇 3618恒河沙 0333極 1071載 5032正 8293澗 1277溝 3198穣 5672[禾予] 1347垓 2153京 6000兆 0000億 0000万 0000)
1秒に1パターンずつ実現すると、約8.96 * 10^66 年 = 896不可思議年。

地球誕生より46億年、宇宙の年齢は約137億年と言われているので、
偶然に頼っていたのでは宇宙の始めから回し続けても完成しない。

ところで、熱運動する気体分子が偶然にも部屋の片隅に集まる確率は、どの程度だろうか。
その確率は、ルービックキューブが偶然にも完成する確率と比較して、どれ程違っているのだろう。
最初から 6.02 * 10^23 個の分子では勝負にならないので、
逆に、ルービックキューブのパターン数でどの程度の気体分子が扱えるのか、考えてみた。
気体分子が偶然部屋の片隅に集まる、とは、部屋を左右2つに等しく分割したとき、
全ての気体分子が右半分に集まった状態であるとしよう。
つまり1個の分子が確率1/2の状態で右に入るとして、全ての分子が右に入る確率のことだ。

log[10](43252003274489856000)/log[10](2) = 65.22940076
log[10](7401196841564901869874093974498574336000000000)/log[10](2) = 152.3745229
log[10](282870942277741856536180333107150328293127731985672134721536000000000000000)/log[10](2) = 247.322823

ルービックキューブ ≒ 気体分子 65個
ルービックリベンジ ≒ 気体分子152個
プロフェッサーキューブ ≒ 気体分子247個

これを多いと思うか、少ないと思うかは個人の受け止め方だと思うが、
ルービックキューブに手こずっている我が身からすれば、気体分子のパターン数は想像以上だと素直に感じる。

ところが世の中には、これほどまでに困難なルービックキューブを易々と解いてしまう人もいる。
トップレベルになると、わずか10秒台で解いてしまうそうだ。
解くのに必要な手数は、多くても26手以内だということが数学的に示されている。
確率的には宇宙の年齢の数倍かけても終わらない問題を、とびきり上手な方法で解くことができる。
ルービックキューブはその実例なのだ。

それでは、気体分子運動の混沌をルービックキューブのように上手に解く方法は無いのだろうか。
例えば、個々の気体分子の運動とルービックキューブを1対1に結びつける。
そういった巧妙な装置を作成しておく。
気体分子+ルービックキューブが熱運動で勝手に動いてしまって困る、というのであれば、
気体分子の入った部屋をいったん細かい小区画に分割し、個々の小区画とルービックキューブを1対1に結びつけておく。
小区画の大きさをうんと小さくすれば、気体分子が入った区画と、分子の入っていない空の区画ができるだろう。
この、分子入りの区画と、空の区画が、ルービックキューブの操作に従って移動するような装置を考えるのである。
そして、ルービックキューブが完成したときに、ちょうど気体分子が部屋の右半分に集中するようにあつらえておく。
というより、この気体分子版ルービックキューブは、面の色をそろえるのが完成なのではなくて、
気体分子をそろえるのが完成形態なのだ。

ルービックキューブが解けるという人は、世界にはたくさんいる。
ということは、少なくとも65個程度の分子であれば、整列する方法が存在するということだ。
さらに、プロフェッサーキューブであれば247個の分子が扱える。
私にはとても無理な話だが、世の中にはプロフェッサーキューブをも楽々こなす「悪魔のような人」もいる。
つまり、一見不可能に思える分子をそろえる作業であっても、知恵と勇気(?!)で何とかなるということだ。

なぜルービックキューブであれば、膨大なパターン数であっても解くことができるのだろうか。
その秘密はルービックキューブの持つ、端的なまでの対称性にあるのだろう。
カッコつけていえば、膨大なパターン数を持つ解空間を、対称性の高い大きな有限群に対応付ける。
あとは天才的な直感に訴えつつ、アクロバティックな群の操作によって問題を解く。
これこそ正に「悪魔の為せる技」であり、宇宙の年齢の10^何十乗倍といった数字も恐れるるに足りないのではないか。

最後に蛇足ながら、たとえもっと大きなルービックキューブが解けたとしても、
そこから新たな自由エネルギーは生み出せないことを付け加えておこう。
ルービックキューブの状態を観察するのに、目と脳の中で動員する分子は250個程度では済まないだろう。
目と脳で消費した自由エネルギーは、必ずやそろえた気体分子から得られる自由エネルギーを上回る。
なので、いかに膨大なパターン数を打ち破る技と言えども、物理法則を破るまでには至らない。