なぜx2乗の微分は2xなのか

x2乗と聞いて、こんな放物線を思い浮かべたり、

微分と聞いて、こんなイメージが浮かぶ人は、かなり数学を勉強したのだろうと思う。


でも、ここではいったん放物線のことは忘れて、
x2乗とは、以下のように一辺xの正方形を順番に並べたものだと考えてみよう。

ここで、とある正方形と、すぐ隣の正方形との差分は、こんな風になる。

うんと近くの隣同士だったなら、コーナーにある小さな h^2 の正方形は無視できて、
実質的な差分は、上辺と右辺に張り付いている細長い「2つの、長さxの長方形」になる。
差分は 2xh なのだが、これを「すぐ隣までの間隔h」で割ると、2xだけが残る。
だから、
  『x^2 の、すぐ隣同士の差分は 2x』
これが x2乗の微分
  (x^2)' = 2 x
の意味だ。

同じように、x3乗という関数を、こんな風に一辺xの立方体を順番に並べたものだと考えてみよう。

この立方体の列で、すぐ隣の立方体との差分は、こんな風になる。

うんと近くの隣同士だったなら、コーナーにある小さな h^3 の立方体と、
辺に張り付いている3本の細長い棒のような立体 xh^2 は無視できて、
実質的な差分は、上面と右面と背面に張り付いている薄い3枚の正方形、「3つのx^2」になる。
差分は 3hx^2 なのだが、これを「すぐ隣までの間隔h」で割ると、3x^2だけが残る。
だから、
  『x^3 の、すぐ隣同士の差分は 3x^2』
これが x3乗の微分
  (x^3)' = 3 x^2
の意味だ。

同じように、x4乗という関数は、4次元の立方体を順番に並べたものだと考えられる。
4次元の図形は直接描けないけれど、4次元立方体の隣同士の差分を想像すると、
4つの次元それぞれの面(体と言うべきか)に張り付いた
(4次元世界から見れば)薄い4個の3次元立方体となるはずだ。
なので、
  (x^4)' = 4 x^3

この関係は次元がいくつ増えようとも変わらない。
n次元の立方体の差分とは、n次元立方体のn個の表面に、(n−1)次元の薄い立体が張り付いたものだ。
なので、
  (x^n)' = n x^(n-1)
これが、べき乗の微分の公式だ。

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いま、上で見てきたことの逆が「積分」だ。
微分「すぐ隣同士の引き算」なら、積分とは「すぐ隣同士の足し算」のことだ。
x^2 の積分が (1/3) x^3 になるとは、
正方形を重ね合わせて作った立体の体積が、一辺 x の立方体の 1/3 になる、ということだ。
つまりこれは、四角錐の体積のことだ。


1つ次元を下げて、
x の積分が (1/2) x^2 になるとは、
長さ x の棒を、短い方から順に並べて作った図形の面積が、一辺 x の正方形の 1/2 になる、ということだ。
要は三角形の面積のことだ。
(※ただし、ここで x は0から数え始めているので、積分定数Cというものを省いている。)

ところで、四角錐の体積は、なぜ (1/3) になるのだろうか。
イメージしやすいのは、こんな風に6個のピラミッド型を組み合わせた形だろう。

ピラミッドの高さは、立方体全体の半分になっているので、
 (四角錐の体積) = (ピラミッドの体積)×2 = (立方体の体積)÷6×2 = (立方体の体積)×(1/3) = x^3・(1/3)

このピラミッドのイメージは、さらに次元を上げても同じことだ。
4次元の世界で、底面ならぬ“底立体”が3次元立方体となっている“4次元ピラミッド”を、
4つの各次元ごとに2個ずつ8個(4×2=8)組み合わせると、4次元の立方体 x^4 ができあがる。
ということは、4次元の(超)四角錐の体積は、4次元立方体の(1/4)になっている。
以降、n次元世界の(超)四角錐の体積は、n次元立方体の体積の (1/n) となる。
  ∫x^n dx = (1/(n+1)) x^(n+1)

さて、いま“ピラミッド型”の立体をイメージしたのだが、
もう少し想像力を働かせると、四角錐を直接組み合わせて立方体を作る様子をイメージできる。
いま一度、3次元の四角錐に戻ろう。
正方形を並べて作った ∫x^2 dx の四角錐を、3個組み合わせて、1つの立方体を形作る様子がイメージできるだろうか。
白状すると、私自身はこのイメージを頭の中だけで描くことができず、ボール紙で立体を作って確かめた。

立方体を対角線に垂直な面で切ると、切り口は正三角形(場所によっては正6角形)となる。
その正三角形の各辺が、それぞれ1個の四角錐に対応する、といえば分かりやすいだろうか。
よく分からなければ、ボール紙か粘土か何かで、とにかく立体を作ってみれば分かる。
こういうときに常々思うのは、人間(あるいは凡人)は3次元の形をはっきりとは把握していなくて、
分かるのはせいぜい2.5次元程度なのではないか、ということである。

より高次元の積分は、この「四角錐->立方体」イメージの延長上にある。
4次元であれば、3次元の立方体を積み重ねて作った超四角錐を、
4つの方向から4個組み合わせて、4次元立方体を作ることができる。
n次元であれば、(n−1)次元の超立方体を積み重ねて作った超四角錐を、
n個の直交する軸の方向から組み合わせて、n次元立方体を作ることができる。


・・・といった内容のことを、この本に著しました。

実用のための「微積」と「ラグランジアン」 (I・O BOOKS)

実用のための「微積」と「ラグランジアン」 (I・O BOOKS)


* おまけ * Σのイメージ *
「3つの四角錐で立方体を作る」様子がイメージできたなら、
その応用として、Σn^2 = 1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 + ・・・が想像できるだろうか。
これが、Σn = 1 + 2 + 3 + 4 +・・・であったなら、イメージは難しくない。

要は三角形の“ブロック版”だ。
Σn^2 とは、四角いブロックを積み上げて作った階段状の立体となる。
以下が苦労の末描いた図なのだが、これで分かるだろうか。
(さすがにこれはボール紙で作る訳にはいかなかった・・・
 7/10: その後、積み木で立体を作ることができた。下の追記参照。)

階段状の立体を3個組み合わせると、n×(n+1)×(n+1)の直方体ができるのだが、
その直方体の1枚の表面は、平面の三角形の階段が欠けた形となっている。
この形から、
 Σn^2 = { n(n+1)^2 - ( n(n+1) / 2 ) } / 3
    = n(n+1)(2n+1) / 6
という高校で教わるような公式が得られる。

さらに、この直方体の塊を2つ組み合わせると(つまり階段状の立体を6個組み合わせると)
「三角形の階段が欠けた部分が」互いに噛み合わさって、n(n+1)(2n+1)の細長い直方体ができる。
この式にある(2n+1)の+1は、噛み合わさった面の1列を表している。
なので結局、Σn^2 = n(n+1)(2n+1) / 6 となるわけだ。

そんな階段状の立体の組み合わせでも簡単にイメージできるという想像力豊かな方は、
4次元の世界で、4つの階段状の立体が組み合わさる様子を考えてはいかがだろうか。
私はここで挫折したが。
 Σn^3 = n^2 (n+1)^2
という結果から推測するに、4次元の直方体では表面が欠けることなく綺麗に収まるらしい。
5次元より先は、もはや直観の及ばない世界と言うしかない。

* 積み木で作るΣn^2 (7/10追記) *

100円ショップで売っていた積み木ブロックで、Σn^2 を作ることができた。
まず、n=3 の塊を3個作る。

それらを組み合わせると、こんな形になる。

これを2つ作ってみると、2つの塊が合体できることに気付く。

合体させると、n・(n+1)・(2n+1) の直方体ができる。

これが、Σn^2 = n(n+1)(2n+1) / 6 の意味だ。
(3枚目の写真と色が食い違っています。一度バラバラになってしまったので、再度やり直した。
実際に積んでみると、けっこう難しい!)